2021 Fiscal Year Annual Research Report
室町・戦国期史料の理解深化に資する小早川氏一族の画像賛に関する研究
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19K00973
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
斎藤 夏来 名古屋大学, 人文学研究科, 教授 (20456627)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 五山文学 / 画像賛 / 玉仲宗琇 / 張良 / 小早川隆景 / 毛利元就 |
Outline of Annual Research Achievements |
大徳寺黄梅院伝来の小早川隆景寿像(生前画像)に玉仲宗琇が著した1590(天正18)年の賛を検討した。 日向出身の玉仲は、瀬戸内の沿岸勢力を檀那としており、玉仲による大徳寺黄梅院の再興も、瀬戸内沿岸勢力の資材運搬により実現している。幅広い檀那の帰依を得ていた玉仲は、関白豊臣秀次や関ヶ原勝者の徳川氏すら憚らない積極的な言行を示す。 隆景寿像賛の主題とみられる張良は、原典の『史記』において、天地自然の意を帝王に伝授する「帝師」とされ、室町期の五山文学は、張良を知るには自然現象を観察せよと説く。しかし列島社会で戦国動乱が本格化すると、張良に優る能力を得て敵に勝とうという自負や高慢が目立ち始める。隆景の父、毛利元就もまた、隆景ら子息に対し、「内なる敵」というべき臣従者たちの真の帰服を得て「張良に優る」よう教えた。著名ないわゆる三子教訓である。父の教えをうけついだ隆景は、臣従者たちとの関係構築を不得手とした甥で当主の毛利輝元について、自家滅亡の原因になりかねないとの焦燥を強めていた。豊臣政権の圧力をうけていた諸大名家内部に生じていた骨肉間の緊張が、毛利氏内にもみられたのである。 隆景の危機感を決定的にしたのは、秀吉から命じられた代官としての九州転出であった。そのおりに隆景本人から寿像への著賛を求められた玉仲は、九州転出はあらたな全世界=九州入としてよい機会であると諭した。そして、『史記』原典に記された張良の「女子」的風貌から生じる思慕に焦点をあて、元就がいう万人に勝ちきる術などではなく、人間には絶対に勝てない自然の摂理を知れと説いた。隆景を父元就の呪縛から救済する教えであり、人と自然との関係を扱う「科学史」上にも興味ある素材であることを示した。
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Research Products
(1 results)