2020 Fiscal Year Research-status Report
植民地統治下の台湾の「日常」と「帝国」日本-植民地統治の影響の深度に関する考察-
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19K00985
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Research Institution | Nanzan University |
Principal Investigator |
松田 京子 南山大学, 人文学部, 教授 (20283707)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 皇太子台湾行啓 / 台湾先住民 / 政治儀礼 / 先覚者 / 勢力者 / 霧社 / 角板山 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、「植民地の日常」の中に働く微細な権力作用や、植民地の日常生活の「場」におけるヘゲモニーのあり方について、特に植民地住民の階層性に注意を払いながら分析することを通じて、植民地統治が植民地社会および植民地住民に与えた影響の深度を考察するものである。 具体的には植民地統治下の台湾に着目し、2020年度は、昨年度に引き続き1923年に行われた皇太子の台湾行啓に焦点をあて、特に台北で行われた「奉迎」行事への台湾先住民エリートの動員のあり方と、当時「蕃地」と呼ばれた台湾先住民居住地への「御使」派遣を中心に考察を行った。すなわち、このような大規模な政治儀礼に、先住民エリート層がどのようにかかわっていくのか、そしてどのような形で「御使」派遣の対象となる先住民集落が選定され、そのことが先住民社会の「日常」にどのように関連したのかを、台湾総督府編纂による『(台湾総督府版)台湾行啓記録』、宮内省御用掛国府種徳による『(宮内省版)台湾行啓記録』、および台湾で発行されていた日本語新聞「台湾日日新報」の関連記事を中心に分析を進めた。 その結果、①台北での「奉迎」行事においては「規律訓練」という側面があったこと、②霧社、角板山への「御使」派遣は、植民地政府に対する激しい抵抗が行われたが、その後、「理蕃」の模範・拠点とされた場所への派遣という共通性があり、そのことを強く意識された派遣でもあったこと、③日本による学校教育を受けた先住民青年エリート(「先覚者」)とともに、旧来から先住民社会に影響力をもった「勢力者」も、この政治儀礼の「場」に組み込まれていったこと等を明らかにした。このような研究成果については、2020年9月にオンラインで開催された台湾史研究会・9月例会で研究発表を行い、そこでのコメントや議論も踏まえて、さらに考察を深め、論文「一九二三年の皇太子台湾行啓と台湾原住民」として公刊した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
研究実績の概要で述べた1923年の皇太子台湾行啓と植民地台湾の「日常」の関連性について、特に台湾先住民に焦点をあてた研究発表を、2020年3月に台湾史研究会・3月例会において行い、そこでのコメントや議論を踏まえて、研究論文としてまとめ、公刊する計画で研究を進めていたが、新型コロナウイルス感染症の影響により台湾史研究会・3月例会の開催が中止となり、予定していた研究発表ができなかった。 そこでさらに論点を洗い出し資料分析を進め、2020年9月にオンラインで開催された台湾史研究会・9月例会で研究発表を行い、そこでのコメントや議論を踏まえて、さらに考察を深め、その成果を論文「一九二三年の皇太子台湾行啓と台湾原住民」として公刊することができた。 しかし2020年度当初の研究課題として、「先覚者」と呼ばれた台湾先住民青年エリート層に焦点をあて、植民地政府と台湾先住民社会の間で揺れ動く彼らの「日常」を明らかにすることを掲げていたが、先述の論文「一九二三年の皇太子台湾行啓と台湾原住民」の中で、台湾先住民青年エリートの中で「公医」となった人物について分析することはできたが、「先覚者」に特化した論文としてまとめることはできなかった。その理由は、先述の「公医」となった人物について考察を進める過程で、対象をさらに広げて分析を深めていくことが重要であり「先覚者」に関する資料調査を台湾に赴いて行う必要性を痛感したが、新型コロナウイルス感染症の影響で2020年度は台湾調査を断念せざるを得なかったため、論文執筆が予定通りには進まなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
2021年度の前半は、昨年度に引き続き、「先覚者」と呼ばれた台湾先住民青年エリート層に焦点をあて、植民地政府と台湾先住民社会の間で揺れ動く彼らの「日常」を明らかにすることを通じて、植民地統治が台湾先住民エリートに与えた影響を、1910年~1930年代を中心に解明していく予定である。 さらに2021年度の後半は、研究対象の関連性を重視し、当初の研究計画では2022年度に実施予定であったテーマを先取りして、研究を進めて行きたいと考えている。具体的には、当時「蕃社」と呼ばれた台湾先住民の集落に焦点をあて、1920年代から1930年代にかけての「蕃社」の「日常」の変化を詳細に解明していく。さらにそのような探究を通じて、植民地政府が主に1930年代に強力に推進した「蕃地」の「内地化」施策によって、台湾先住民社会がいかなる深度の影響を受けたのかも明らかにしたい。 ただし当時の台湾先住民青年エリート層の実像および台湾先住民社会の「日常」に迫ることができる資料はごく限られている。1920年代に関しては『理蕃誌稿』、1930年代に関しては『理蕃の友』が基本資料となるが、これらはすでに備品として備わっているため、その中から本研究テーマに関連する重要記事を抽出し分析を進める。 また台湾大学図書館(台湾・台北市)、国立台湾図書館(台湾・新北市)に調査に赴き、同館に所蔵されている当時の雑誌や台湾の地方新聞等の閲覧・調査を行い、関連資料の収集を行う。さらに台湾先住民エリート層については、彼らの子孫に対して1990年代以降行われたインタビュー記録の収集も行う予定である。このような台湾への調査は、早期に、できれば夏に実施したいと考えているが、新型コロナウイルス感染症の影響で、冬以降に台湾調査の実施がずれ込んだ場合に備えて、まずは国内で入手可能な資料の収集と分析を集中して行っていく。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルス感染症の影響で、2020年9月に研究発表を行った台湾史研究会がオンラインでの開催となったのをはじめ、多くの関連学会が中止またはオンライン開催となり、また緊急事態宣言の発令中など県をまたいでの移動自粛が求められてため、東京の国立国会図書館等への資料調査の実施も困難となった。さらに本研究課題にとっては、台湾への調査旅行が大変重要であるが、台湾への渡航も困難な状況が続いたため、当初予定していた使用計画と大幅に異なることとなり、旅費を中心に次年度使用額が生じた。さらに台湾現地での文献調査に基づく購入を予定していた図書(台湾地域誌関連図書)の購入用設備備品費、調査に基づく資料複写費および資料整理用文具についても次年度使用額が生じた。 2021年度は、ぜひ台湾への調査旅行をできれば複数回実施し、これまでやや遅れている資料調査・収集および関連図書購入を集中して行う予定である。さらに国内での資料調査旅行、学会での研究発表旅行も積極的に実施する予定であるため、旅費として主に使用する計画を立てている。 しかし万が一、新型コロナウイルス感染症の影響で台湾への調査旅行および国内の調査旅行について、実施が困難な状況が続いた場合は、当初の研究計画では2022年度・2023年度に購入予定であった関連図書の購入を先だって進めることを検討する。
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Research Products
(2 results)