2019 Fiscal Year Research-status Report
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19K00995
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Research Institution | The University of Tokushima |
Principal Investigator |
衣川 仁 徳島大学, 大学院社会産業理工学研究部(社会総合科学域), 教授 (10363128)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 祈り / 中世宗教 / 霊験 / 神仏 / 密教修法 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、日本中世の宗教を題材に中世の人々が「個人」としていかに宗教と関わったかを考察するものである。 願望成就を果たした「個人」は、願いを叶えてくれた存在の〝言うことを聞く〟という結果をもたらすことが多く、そのため政治的に利用されてきたが、その点については程度の差こそあれ、時代を問わない。本研究では、現代人にとってもポピュラーな「お守り・おふだ」をはじめとする願望成就の手段としての祈りが、中世人にとってどのような意味を持っていたのか、主として平安時代後半以降の具体的な事例を古文書・古記録類から収集・分析し、①どんな願望を抱いたか、②その願望を成就させるためにどのような手段を選択したか、③祈りの結果、どんな効果が生じたか、④「個人」が祈りの結果をどう受けとめたか、という点についてのデータを集積、『神仏と中世人 宗教をめぐるホンネとタテマエ』(吉川弘文館)として上梓することができた。①たとえば豊作を願う雨乞いの祈りが富に関連し、無病息災の祈りが生命に関わるものであるように、中世人の願望の中心が「富と寿(いのち)」にあること、②それらを成就させるために、中世人たちは宗教界に対し様々な祈りを要請したこと、③こうした要請に対し、宗教界は期待に応えるべく様々な祈りを提供できるよう準備し、成功した場合には霊的な力の喧伝がなされ、その力は社会に記憶・記録されたこと、④世俗社会にとっては、祈りの成功例が場所・人・祈りの手法などのよき先例として定着することになったため、さらなる願望を求めて宗教界にすがるようになる構造があったこと、などを明らかにした。 残った課題としては、「個人」の信仰はどのように変化したのか、祈り以外の手段を選択したケースについてはどうか、死にまつわる願望はどのように扱われたのか、などで、これらは本年度以降の課題である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では、上記の課題設定のうち、①どんな願望を抱いたか、②その願望を成就させるためにどのような手段を選択したか、という具体的な事例収集を優先してきた。そのため、時代を平安時代の後半に集中させ、当該期の宗教をみる上で最重要である平安京を舞台としたデータ収集・分析に努めることとしたため、後述するように時代・テーマ・素材において偏りが生じたことは否めない。しかしながら、『神仏と中世人 宗教をめぐるホンネとタテマエ』(吉川弘文館)として上梓することができたことで、一定の成果を上げられたのではないかと考えている。よって「おおむね順調に進展している」とするものである。
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Strategy for Future Research Activity |
残った課題としては、①死にまつわる願望はどのように扱われたのか、②「個人」の信仰はどのように変化したのか、③祈り以外の手段を選択したケースについてはどうか、などである。 ①については、「終活」というワードが定着した現代でも重要なテーマであり、死後の安穏に関する情報を求める人が多い現状がある。ただしその場合の関心は、死後世界そのものよりも終末期の医療や介護、お墓事情や相続をめぐる問題であり、このあたり現代社会の問題とも絡めることができればと考えている。 ②と③について、たとえば土地の相続に関する史料からは、個人の死後救済・安穏願望と、イエとしての財産相続という面が重なり合い、「個人」の思いを凌駕する側面が見出される。こうした歴史社会的な考察を広く踏まえながら、宗教関連資料のみならず経済性も見据えて資料収集にあたる予定である。 テーマとしては以上のようなデータ収集・分析を本年度以降に実施する予定である。また、対象としては説話・文学類に、時代としても鎌倉時代へと広げることを検討しているが、このデータ収集についても本年度以降の課題である。そこでは、基本的に所属機関等にある活字史料を用いつつ、特に文字を残せなかった民衆の思いをすくい取るべく、諸機関のデータベースを利用しながら実見することも想定している。
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Causes of Carryover |
新型コロナウィルスの影響により出張旅費として使用するか、物品費として使用するかの判断が遅れたため、物品費として使用しきれなかった。次年度の物品費(関連図書の購入費)に充当する計画である。
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Research Products
(1 results)