2020 Fiscal Year Research-status Report
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19K00995
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Research Institution | The University of Tokushima |
Principal Investigator |
衣川 仁 徳島大学, 大学院社会産業理工学研究部(社会総合科学域), 教授 (10363128)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 祈り / 中世宗教 / 霊験 / 武家社会 / 軍記物 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、日本中世の人々と宗教との関係について、総体としてではなく「個人」としての側面に焦点を合わせながら歴史的に考察するものである。令和元年度には、「個人」と中世宗教との歴史的関係を考察するために、①どんな願望を抱いたか、②その願望を成就させるためにどのような手段を選択したか、③祈りの結果、どんな効果が生じたか、④「個人」が祈りの結果をどう受けとめたか、という四つの課題を設定しておいた。 令和元年末に上梓した『神仏と中世人 宗教をめぐるホンネとタテマエ』(吉川弘文館)の後をうけて、「個人」と祈りとの歴史的関係をいかに明らかにするかという段階に到達したものと考える。このまま研究を継続する予定であったが、本年度は新型コロナウイルス感染症の世界的な蔓延という未曾有の事態に、日常生活にも様々な影響が及んできたことを受け、本務校でも出張の制限がかかるなど、研究面でも一定の制約が生じることとなった。 こうした状況下、「個人」的な願望としての「寿(いのち)」の比重が高まっていることと宗教的な祈りとの関係を視野に入れながら、改めて中世宗教の願望成就についての検討を進めていった。たとえば鎌倉期の武士社会に残された文書群、戦闘とは直接関係の無い、病気や自死による最期を遂げた武士の描写など、様々な史料を収集・検討していく中で、身体の治癒を願う人々の営み(=祈り)と、職能として殺人に携わらざるを得ない武士が、「個人」として抱く願望成就をどのような心性において実践していたかという点に関心を抱いた。そういった問題意識に立って、願望成就としての祈りには身体性に関わるものと観念世界での実践を目的とするものとがあるのではないかという着想を得た。この着想は本研究への申請段階ではなかったものであり、具体的な分析には至っていないものの、〝コロナ禍〟での研究の成果といえる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では、前年度に引き続き史料収集(入手できた資史料からの情報抽出を中心とする)に力点を置いた。その結果、たとえば鎌倉幕府法および鎌倉期の寺院法、鎌倉御家人関連の文書群など、平安時代後半以降にも目配りができた。この点で、令和元年末に上梓した『神仏と中世人 宗教をめぐるホンネとタテマエ』(吉川弘文館)の後に繋げる研究として一定の成果を見込めると考えている。具体的には武士「個人」が宗教願望を抱くことと、武家社会としての〝宗教観〟とが截然と分かれる可能性があること、そうした「個人」的武士の願望が武家社会の一員としてはどのように思想的に処理されるのかという課題として浮き彫りになったこと、などが成果といえる。ただし、武士関係の史料に偏りが生じた嫌いがあること、新型コロナウイルス感染症の影響によって令和3年度における作業進展の見通しが未だ立たないこともあり、史料収集の範囲が限定される恐れも残っていることなどを鑑みて「おおむね」を付加せざるを得なかった。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の目的は、日本中世の宗教を素材に、「個人」が抱いた願望(世俗的か非世俗的かを問わず)をどう〝処理〟したかという点に焦点を合わせ、中世という時代の「個人」と宗教との関わりについて考察することである。それによりこれまで国家・社会との関係を軸に明らかにされてきた中世宗教の、別の特質が明らかになるのではないかと考えるものである。令和2年度における本研究は、上述の通り、新型コロナウイルス感染症の影響を受けたこと、そしてそのために研究代表者の視角に多少の変更が生じた。ただし、その〝変更〟は「個人」と宗教の関係性をより多角的にみる視座を提供するものとして、現時点では歓迎すべきものと考えている。そのため、研究の進捗は予定通りのものとなっている。 令和3年度において研究をいかに推進していくか。当初の予定では①平安時代を中心とした古記録類、古文書類、説話・文学類を収集し、必要とあらば前後の時代も含めること、②初年度においては古記録類を、次年度以降、古文書類、説話・文学類を対象として調査検討を進めていくこととしていた。おおよその内容に変化はなく、適宜武家関係の史料を対象として加増することも継続することとしたい。なお収集にあたっては、基本的に所属機関等にある活字史料を用いつつ、特に非文字社会に生きる人々の「個人」的な姿もすくい上げることを目指し、諸機関のデータベース(非文字資料を含む)を利用することとなる。また出張費は資史料の実見機会を確保するために計上しているが、それが実現できるかどうか見通しは不透明である。その中でも可能な限り機会を捉えることとしたい。
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