2023 Fiscal Year Research-status Report
ハリストス正教会による留学生派遣―北からのグローバリゼーションと東北の近代―
Project/Area Number |
19K01000
|
Research Institution | Teikyo University |
Principal Investigator |
山下 須美礼 帝京大学, 文学部, 准教授 (90523267)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
北原 かな子 青森中央学院大学, 看護学部, 教授 (80405943)
|
Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2025-03-31
|
Keywords | 近代化 / 東北 / ロシア / キリスト教 |
Outline of Annual Research Achievements |
ロシアでの実地調査が実質不可能となった本研究は、初年度以来、日本でも閲覧できる史料や情報を中心に調査・研究を進めてきた。 そのような史料の一つに、後に留学生となる若者の父親による日記がある。研究代表者の山下は、2022年度に活字化した本日記の翻刻の続きを、2023年度に①「資料紹介「家翁録」(二)明治一一年七月~一二月―宮城県士族ハリステアニン涌谷繁の日記―」(『帝京史学』39号、2024.3)として公表した。 研究分担者の北原は、科研費での調査の成果に基づき、②「「辺境」からみる洋楽受容と近代東北の音楽家たち」(『第一回「音楽とリベラルアーツがつむぐ地域革新」宮城学院大学キリスト教文化研究所公開シンポジウム』(招待講演)2023.11.4)、③「東奥義塾の歴史に見る津軽地方近代の国際性と先駆性」(『東奥義塾開学150周年記念式典』2023.10.20)、④「斗南藩・イタコ・青森ヒバ-青森県史近現代にみる下北地方―」(『放送大学青森学習センター公開講演会』2023.9.2)の三つの講演を行なった。 さらに北原は、⑤「東北学院大学史資料センター」(2023.11)にて調査を行い、東北出身音楽家である酒井勝軍の史料所在状況についての情報を得た。また⑥国立国会図書館調査(2023.12)において、デジタルコレクションでは閲覧不可となっている資料の調査を進めた。特に「音楽新報」は明治中期に活動した東北出身音楽家たちの論を中心に収集した。 山下も、⑦宮城県(2024.1.14-16)、⑧宮城県(2023.12.21-23)、⑨岩手県(2024.1.25-1.27)、⑩青森県(2024.3.14-3.16)において、それぞれ県立図書館での調査を行ない、同郷組織などに関する情報を収集した。 これらの調査成果も用いながら、留学帰国者の影響力などにも目を向け、引き続き検討を行なっていく。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
ロシアでの実地調査をメインに進めていく計画の元で始まった本研究であるが、初年度(2019年)にはすでにロシアでの調査は極めて困難な状況となった。それ以降、日本国内で実施可能な資料調査のなかで研究を進展させる努力を行なってきた。留学生を送り出す出身地や家族の在りよう、後の留学につながる東京等への遊学、さらには留学生が帰ってきた後の地域社会への影響やそこでの活躍等については、これまでの資料調査により、かなりの情報が集まりつつある。一方で、研究代表者の山下が行なうとしていた『正教新報』の悉皆調査は、2023年度に終了させる予定であったが、すべて終わらせることはできなかった。 しかしこのような調査から、研究対象として追求すべき事柄や人物、史料なども新たに見出すことができてきている。その一つとして、最終年度となる2024年度に必ず調査を実施したいと見込んでいる対象もある。 これらの成果を元々の研究課題にどのように組み込み、より意義のある研究としてまとめられるかについて、研究代表者と分担者の間で頻繁に相談し、最終年度の研究計画を立て、進めているところである。
|
Strategy for Future Research Activity |
主に明治期の、ハリストス正教会や東北地方に関わる日本人留学生を中心に、留学生およびその周辺の状況について、昨年度以降追加できた史料や情報の調査・分析を引き続き進める。東北の、多くは士族出身の留学生が留学を実現するにあたって、どういった経緯や周囲のバックアップがあったのか、また帰国した後に彼らがどのようなコミュニティーのなかに受け入れられ、どのような活躍の場を見出し(もしくは用意され)、そしてどういった人々との関係を作り出していったのか、史料に基づきその具体像を明らかにしていく。 同時に、ハリストス正教会の信徒だけでなく、その他の東北地方出身の、主に他のキリスト教に関わる留学生やその関係者についても、手元にある史料や情報を元に整理し、対照させていく。 また、正教会の機関誌である『正教新報』等から関連する記事を抜き出すための悉皆調査は今年度で終わらせることはできなかったので、2024年度の早い段階で完了を目指す。 そして、正教会からロシアへ留学した音楽家の金須嘉之進に関する史料が保管されているとの情報を研究分担者の北原が得たので、今後、急ぎ閲覧の許可をいただけるようコンタクトを取り、調査の実現を図る。 そして、数年にわたる研究の成果として、公にしていく。
|
Causes of Carryover |
コロナ禍や世界情勢等により、初年度以降からずっと実施を見送っていた研究代表者と研究分担者の2名によるロシア調査を、本年度も断念せざるを得なかった。また国内で予定していた調査や対面による研究打ち合わせも、初年度から数年は諸事情を勘案した結果、予定通りには実施できない時期が続いた。これらの理由により、旅費として見積もっていた額や、その実施にともない必要とされたであろう諸経費が支出されなかったことが大きい。 今後の使用計画としては、日本国内で閲覧可能な史料を中心にと舵を切ったことで、その後の調査の結果、新たに実施の必要性が生じた調査・研究のための国内旅費に充てる。 さらにもう一つとしては、最終年度である2024年度において、研究協力者のナタリア・クロヴコヴァ(メールにて本研究に関する助言を頂いたり情報交換をしたりしてきたロシア人研究者・モスクワ在住)の来日が無理なくできる状況になれば、史料や情報の共有、意見交換の面からも対面での打ち合わせを実現したいと考えている。その来日のための旅費に充てることも、実現可能性は低いかもしれないが、予定として挙げておきたい。
|
Research Products
(4 results)