2019 Fiscal Year Research-status Report
中世荘園における荘官の実務能力と環境対応に関する研究
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19K01003
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
高木 徳郎 早稲田大学, 教育・総合科学学術院, 教授 (00318734)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 室町期荘園制 / 荘官 / 収納 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、中世荘園の現地において、都市領主による荘園の支配を実務面で支えた公文などの荘官の実務能力の「質」を明らかにすることを目的としている。飢饉や災害、戦乱がうち続いた中世という時代にあって、都市領主が曲がりなりにも年貢・公事などの収納を実現できたのは、地域ごとの細かい作柄の違いや農作業の進捗状況を現場において見極め、バランスを調整しながら収納にあたらせ、帳簿上の操作も行って毎年の安定した年貢納入につなげていった荘官たちの実務能力があってこそのことであった。本研究は、そうした荘官たちの実務能力とは具体的にどのようなものであったのかを見定め、彼らの仕事ぶりを史料の厳密な校訂から探ってゆくことを目的としたものであるが、そうした点の解明には、豊富で良質な史料群の存在が不可欠である。 一方、こうした荘官の家は、中近世移行期の時代の荒波の中で、武士化したり地域の「名士」として江戸時代に生き残っていく場合も少なくないが、そのような場合、家に残された荘官時代の文書は、用が済んで廃棄されたり、家の由緒を語るもののみ美しく表装・補修されたりし現在に伝えられているものも多い。言わば、過去の仕事ぶりがある意味で「美化」されて残されているわけで、かつての仕事ぶりの実態が、ウブな形でみられることはきわめて稀である。 そうした中で、本研究では、紀伊国和田荘の荘官(公文)を務めた林家に残された文書600点余りを対象に、その正確な翻刻をめざして、その仕事ぶりの実態を明らかにしようとするものである。林家文書は、そのほとんどが表装されることなく、奇跡的に当時の姿のまま残されている貴重な文書群で、量が膨大であったため『和歌山市史』『和歌山県史』などの自治体史にも収録が見送られて現在に至っているものである。本研究の趣旨にとってはまたとない素材であり、取り組むべき価値のある貴重な文書群である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
林家文書は、『和歌山市史』の編纂過程、および現在の所蔵者である和歌山市立博物館への収蔵過程で写真撮影が行われている。本研究の開始にあたって和歌山市立博物館と交渉し、その写真版(CD-ROM)の提供を受けて、東京においてまずは写真版を利用して翻刻作業を行うこととした。なお、作業の効率化を図るため、『和歌山市史』の編纂過程で作成されていた仮の翻刻資料の提供を受けることができたので、翻刻作業の参考に利用させて頂いている。このこともあり翻刻作業は順調に進展し、600点余りのうち約3割程度の翻刻が終了している状況である。 なお、6月に1回、研究の進め方に関する打ち合わせのため、和歌山市立博物館の小橋勇介氏、和歌山県立博物館の坂本亮太氏に東京に来て頂き、10月には、写真のみによる翻刻の限界を補うため、和歌山市立博物館にて原本調査を行った。また、本年度の研究進捗状況の確認のため、1月に早稲田大学において研究会を行った。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度行ってきた林家文書の翻刻作業をさらに継続していく予定である。但し、本年度は1点ずつ地道に翻刻するだけであったが、1年間の作業と原本調査により、文書と文書が接合するものや、筆跡による文書の前後関係や筆者の同定などの手がかりが得られるようになってきたため、こうした点に留意しながら、文書群の構成や全体像、個々の文書の性格等を少しずつ明らかにできるよう努めたい。 また、本年度は原本調査のため和歌山市立博物館を訪れたが、和田荘の現地を訪問することはできなかったため、文書に所見する地名の位置関係や現地の状況を把握するための現地調査を行うことも計画したい。
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Causes of Carryover |
本年度、購入予定であった書籍が、学会会場において割引価格で入手できたため、予定額との間で差額が生じた。次年度において使用する文具などの消耗品費に充てることにしたい。
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