2022 Fiscal Year Research-status Report
中世荘園における荘官の実務能力と環境対応に関する研究
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19K01003
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
高木 徳郎 早稲田大学, 教育・総合科学学術院, 教授 (00318734)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 荘官 / 公文 / 紀伊国和太荘 / 林家文書 / 室町期荘園制 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、紀伊国和太荘において荘官(公文)を務めた林家に残された600点の古文書の整理・翻刻・分析を行った上で、その荘官としての実務能力の実相を解明することを目的とした研究である。しかし、対象とした林家に残された古文書(林家文書)の現況は、和歌山市立博物館に所蔵され、適切に保存管理が行われてはいるものの、本来、接続していた紙片が糊離れしてバラバラになっているものや、帳外れ(綴じてあった状態の冊子がバラバラになってしまうこと)になって元々の状態が分からなくなっているものも多い上に、そもそも解読自体が困難なものや、作成年月日が不明なものも多い。そのため、昨年度までの研究期間で、まずは一次的な翻刻作業(正確な解読を期すための下原稿の作成)と、一部の原本確認作業を協力者とともに行うことで、従来、部分的な紹介(博物館展示での活用や個人の研究論文等で個別の数点の文書を引用する等)にとどまっていた林家文書の全体像をおおよそ把握することが出来たと考えている。 また、林家文書は、2000年代に東京大学史料編纂所により全点の写真撮影が行われ、その際に前述したような糊離れや帳外れ等によりバラバラになった紙片の接続状況の確認がなされ、その接続案が示されていたが、今回の調査によりその接続案の一部は正しくない可能性があることが分かってきた。今後、林家文書を活用した研究が進捗するためには、まずは正確な翻刻の作成と、バラバラになった紙片と紙片を正確に接続し完全な状態に復元していく作業が不可欠で、今年度は前者を中心に作業を進めた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本年度は、引き続き新型コロナウィルス感染症拡大の影響により、和歌山市立博物館における原本調査に制約があったため、予定通りの研究の進捗が困難であったが、和歌山市立博物館より提供された同館および東京大学史料編纂所撮影の原本の画像データによる二次的な翻刻作業(昨年度までに作成した一次的な翻刻原稿を、画像データにより校正していく作業)を昨年度から引き続き順次進めていった。林家文書は、年貢収納などの現場にて作成され、活用された検注帳・納入帳簿・算用状類が多数を占めており、様式や文言が定まっている公文書とは違って、そもそも正確な判読や理解が難しい。そのため、最終的には原本を熟覧しての翻刻が不可欠であるが、原本調査に制約があった本年度は、画像データで確認できるものについては画像データを活用した翻刻に注力し、今後の研究の進捗を期すことにした。現在の進捗状況としては、おおよそ4割程度の文書について、写真校正を終えた状況(今後、さらに原本を熟覧した上での接続状況の確定が必要)である。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度も前年度に引き続き、林家文書の翻刻を進めていくが、前述したように、年貢収納の現場で作成された一時的な覚え(メモ)や計算書のような文書など一部の文書については、写真による判読はもちろん、原本を熟覧してもなお、文字の判読が困難な文書がどうしても残ると思われる。そうした文書については、敢えて強引に翻刻を行い、誤った翻刻が世の中に出回るよりは、写真を掲載する形で公開・刊行する方が良心的なのではないかと考えている。もちろん、そうした写真掲載だけで翻刻を行わない文書の点数をできる限り少なくすることを目指すが、その数がゼロになる見通しは現在のところ立っていない。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルス感染症の終息が見通せない中、現地調査や、林家文書を所蔵する和歌山市立博物館での原本調査に大きな制約が生じていたため。 同感染症の終息状況を見極めながら、その時々の状況に応じて出来る作業を順次進めていく。
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