2021 Fiscal Year Research-status Report
朝鮮開港後における漁場秩序の再編過程:日本人出漁の影響を通じて
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19K01042
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Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
石川 亮太 立命館大学, 経営学部, 教授 (00363416)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 朝鮮通漁 / 釜山倭館 / 海藻 / テングサ |
Outline of Annual Research Achievements |
19世紀末の朝鮮開港期における日本人漁業者の活動や水産物貿易について文献調査を実施した。史料としては『大日本水産会報』をはじめとする日本側の報告と、朝鮮王朝の行政文書(ソウル大学校奎章閣韓国学研究院所蔵、オンラインデータベースや刊行資料集によって利用可能な部分)とを主に用い、両者を対照することで複眼的な視点を確保できるように努めた。その成果としては「明治期朝鮮通漁における組織化の試み:朝鮮近海漁業連合会から朝鮮通漁組合連合会へ」、「交隣と貿易:開港前後の海藻輸出」の2本の論文を公刊したほか、複数の口頭発表を実施した。 上の2本の論文の概略を述べる。「明治期朝鮮通漁における組織化の試み」は、日本人出漁者の網羅的な組織として1900年に成立した朝鮮海通漁組合連合会の成立過程を再検討したものである。この組織について従来は、農商務省の主導による上からの契機によって成立したと見なされてきたが、実際にはそれ以前か送り出し地の有力水産業者が繰り返し出漁者の組織化を試みており、その延長線上に連合会の成立があったことを論証した。また「交隣と貿易:開港前後の海藻輸出」は、開港前後期の釜山における重要な輸出品であった海藻を取り上げ、在来的商品の連続性に注目した検討を行った。その背景には、対馬藩による倭館貿易の経験を持つ日本人の水産物商人と、朝鮮側で倭館貿易に関与してきた商人たち、双方の人的な連続性があったことが明らかとなった。 こうした文献史調査と並んで、今年度は日本国内の漁村・水産加工品産地のフィールドワークを積極的に実施した。具体的には静岡県下田市と三重県鳥羽市において、テングサをはじめとする海藻漁と海藻加工品の生産について、聞き取りや史料発見に注力した。その成果は整理中だが韓国沿岸漁村との比較調査の準備と位置付けている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究が日本人漁業者の朝鮮通漁について現地漁民との関係性に従事して検討することを目的としていることから、新型コロナウイルスの流行による渡航制限により、韓国の図書館・文書館での資料調査や出漁先地のフィールドワークが実施できなかったことは、研究の遂行上大きな障害となった。また日本国内の図書館等においても、同じ理由で訪問利用を謝絶している機関が少なくなく、これも研究の妨げとなった。 一方で韓国の図書館・文書館(国立中央図書館やソウル大学校奎章閣韓国学研究院、韓国学中央研究院など)は、近年、所蔵資料のデジタルアーカイブを通じた公開が急速に進展しており、日本からのオンライン調査が当初の想定以上に円滑に実施できたことは、大きな成果であった。 また日本国内の漁村や水産加工品産地におけるフィールドワークは、朝鮮半島とも共通性の多い日本の水産業についての知見を広める上で極めて有用であり、今後、韓国での現地調査が再開できるようになった折には、比較研究の素材として利用できる資料も多数収集することができた。 このように新型コロナウイルスの流行は大きな制約要因となったものの、必ずしも全面的に調査が実施できなかったわけではなく、新しい知見を獲得する契機も得られたことから、「やや遅れている」と評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
2022年度はこれまでに実施できなかった韓国現地調査の実現に向けて努力する。日本人漁業者の朝鮮沿海操業について、日本側から見た史料はかなり蓄積できたことから、そこに描写された事態が現地の側から見てどのように意義づけられるか、漁村の生態環境やそれに規定された操業形態などの調査を踏まえて、明らかにしたいと考える。19世紀の日本人側の史料では、朝鮮人の漁業について遅れた・生産性の低い漁業とのみ評価し、立ち入って検討することは少ない。しかし現地の側から見れば、「遅れた」ものと見られた漁業が、実はその地の環境に即した合理性の高い漁業であった可能性は十分にある。そのような視点から現地フィールドワークと史料捜索を行うことが課題である。 一方でもし新型コロナウイルスの流行が収束せず、現地調査が実現しなかった場合には、日本国内での史料調査とともに、漁村のフィールドワークをさらに継続して行う予定である。日本国内における水産資源の利用が、近代の技術革新や市場環境の変化に伴ってどのように変化したかという問題について考えることは、同時期の朝鮮における状況を理解する上でも、有用な知見を提供すると考えている。 いずれにせよ次年度は、上のような資料調査と並行して、これまでに得られた資料を利用した研究のまとめにも力を注ぎたいと考えている。
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Causes of Carryover |
海外出張が不可能な状態で国内での調査が中心となったことから、当初海外出張によって支出すると見込まれた旅費の執行が不可能になったため。2022年度には海外での資料調査の実現を見込んでいるため、残額はその旅費の一部として使用する計画である。
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Research Products
(5 results)