2019 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
19K01077
|
Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
加納 修 名古屋大学, 人文学研究科, 教授 (90376517)
|
Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
|
Keywords | アジール / フランク時代 / 教会 / 王権 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度はフランク時代の教会アジールに関する史料の調査を中心に行った。メロヴィング期においては、国王が発する勅令よりも、司教たちの集会である教会会議でアジールに関する規定が定められたことが判明した。犯罪者や奴隷を復讐や主人の暴力から守る制度であるアジールに対して王権はあまり積極的な措置を講じることはなかったのに対して、教会がこの権利を守るとともに、社会の平和維持に努力していたのであった。 同じく6世紀末にトゥールのグレゴリウスが著した『歴史十書』をはじめとする作品においてアジールに関連するエピソードを網羅的に拾い上げた。一つ一つのエピソードがしばしば長く複雑な内容となっているため、まだ十分に整理できていないが、これらエピソードは現実にどのように教会がアジールとして機能したかを教えてくれるであろう。 カロリング期においては、王が勅令を通じて教会アジールの権利を制限するようになった。いまや王権が社会における暴力の統制に乗り出したのである。アジールに関連する史料類型についていえば、いまや歴史書ではなく、カロリング・ルネサンスの知識人が交わした書簡においてアジールに関する言及が現れることになる。アルクインの書簡とアインハルトの書簡である。アルクインの書簡は修道院長としてのアルクインとカール大帝がアジールに対してどのような見解を有していたかを教えてくれるのに対して、アインハルトの書簡は地方社会において具体的にどのような人物がどのような仕方でアジールに頼ったかを伝えてくれる。 メロヴィング期からカロリング期にかけて、アジールに言及する史料の性格が変化したこと、それゆえそこから得られる情報も異なることを確認することができた。これを前提として、次年度以降により立ち入った史料の検討を行う。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ほぼ予定通りに進んでいる。史料類型の整理によって、メロヴィング期の史料には、とりわけアジールに対する教会側の理解が反映しているのに対して、カロリング期の史料には王権の利害が色濃く見られることが明らかになった。こうした相違があるとはいえ、現実のアジールの状況については、メロヴィング期からはとりわけトゥールのグレゴリウスの作品から、カロリング期についてはアルクインやアインハルトの書簡から明らかにすることができる。それゆえ、史料の性格に注意しながらも、フランク時代を通じてのアジールの歴史的変遷を追うことができる。
|
Strategy for Future Research Activity |
時期的な変化を明瞭にするために、さしあたりメロヴィング期とカロリング期を分けて考察し、教会アジールの特徴を明らかにした後、そこから国家の性格を分析する。教会アジールの特徴の解明にあたっては、部族法典、教会会議録、叙述史料の三つに分けて、以下の諸問題を検討する。 アジールの享受者については、いかなる人物や集団が教会に逃げ込むことを許されていたのかを調査する。アジール空間については、史料ではたいてい「教会に逃げ込む」としか記されていないが、教会の建築複合体のなかで、いかなる空間がアジール空間として認められていたのか、祭壇には何か特別な意味が認められていたのかを検討する。逃亡者の扱いについては、教会に逃げ込んだ犯罪者にはたいてい処罰が軽減されたのだが、彼らがいかなる保護を享受したかを明らかにする。アジール違反者について、教会から逃亡者を連れ出した者は、いかなる扱いをうけたのか、また違反者に対する態度には、いかなる背景が存在したのか(国家による対応なのか、聖域信仰に基づく対応なのか)を検討する。 これら諸問題の検討を通じて教会アジールの基本的特徴を明らかにし、そこに反映する国家の性格について手がかりを得ることを目指す。
|
Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた理由は、とりわけ、入手を依頼していた史料と研究書(古書)が手に入らなかったためである。 次年度の研究費として、引き続き西洋中世初期史の史料と研究文献の入手にあてる。また国内での研究発表を行う予定である。さらに、フランスから中世初期の教会アジールに詳しいソルボンヌ大学教授Bruno Dumezil氏を招聘して講演を行ってもらうとともに、研究の打ち合わせを行う予定である。
|
Research Products
(1 results)