2021 Fiscal Year Research-status Report
基礎構造分析に基づいた近世漆塗製品の保存処理及び形態・組成に関する研究
Project/Area Number |
19K01123
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
柴田 恵子 東北大学, 埋蔵文化財調査室, 専門職員 (70322980)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 近世漆塗製品 / 保存処理 / 塗膜構造分析 / トレハロース / X線CT |
Outline of Annual Research Achievements |
2019・2020年度の3次元X線CT撮影によって、トレハロース含浸処理法での保存処理後の資料の内部状態を視覚的に捉えることができた。保存処理条件によって内部の状態が異なることが判明し、目指すべき保存処理後の内部状態を知ることができた。そのことについてCT画像をムービー化して、2021年度日本文化財科学会第38回大会にてポスター発表を行った。 保存処理方法については、昨年度に引き続き生花用吸水スポンジを試料とし実験を行った。その結果、トレハロースの結晶化の特性について理解が深まり、ディッピング方法も重要であるが、その後の乾燥方法も重要であることが判明した。 塗膜構造分析では、171点すべてのプレパラートを最終段階まで研磨し仕上げた。また、生物顕微鏡での観察と写真撮影をほぼ完了した。塗膜の成分元素分析を行うため、弘前大学人文科学部所有のEDS装備走査型電子顕微鏡を借用し、試験的に6点の分析を行い、本格的な分析に向けての必要な知見を得た。しかしながら、コロナ第6波および地震の影響でその後の分析には至っていない。次善の策として、宮城県産業技術総合センターの類似機器を借用し、主に資料の内面側の塗膜分析63点を行った。赤色漆は酸化鉄由来のものが多く、資料によっては鉱物が含まれているものもあることが判明した。 宮城県内の中世以降の出土漆器を編年的にまとめられていない。そのため、初年度から中世以降の県内出土資料を各発掘調査報告書から網羅的に収集していた。それを元に中世(13世紀以降)から近世の県内出土漆器で、できるだけ一括性の高い資料を元に、年代的変化を一旦とりまとめ、図などの資料作成を行った。中世では年代の判明する共伴遺物に乏しく、遺物そのものからではなく、遺構の切り合いや調査における段階設定から年代を捉える漆器もあったが、一通りの年代的変化を追うことはできた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
塗膜構造分析のため弘前大学のEDS-SEMを借用して分析する予定であった。コロナの感染状況を見計らいながら弘前大学にて試験的分析を1回行い、そこでわかった測定前に必要な準備資料をまとめつつ、プレパラートの最終的研磨と生物顕微鏡での塗膜構造の写真撮影などを行った。弘前大学にて分析する日時を予約していたが、そのタイミングで第6波の感染者増加傾向と重なり、直前で弘前大学での分析は延期とした。コロナの減少傾向のタイミングで3月の地震で東北新幹線が不通となり、さらに延期となっている。 その間、次善の策として、県内移動で行える機器を探し、宮城県産業技術総合センターの類似機器を借用して、改めて数回の試験的分析の段階を踏んで、実際に機材を借用・分析に行き、全体の4割程度を分析することができた。ただし、生物顕微鏡観察で塗膜構造が複雑な試料や装飾部分の試料は、弘前大学にて助言を得ながら分析する必要があり、その機会を見計らっている状態である。 保存処理方法については、生花用吸水スポンジを試料とした実験の乾燥重量データを引き続き計測中であり、継続して実験する。その成果を元に、次の段階として、実際の出土漆器の保存処理実験を行うこととしている。 考古学的観点では、中世(13世紀以降)から近世の宮城県内出土漆器を一通り収集し、できるだけ一括性の高い資料を元に、年代的変化を型式学的観点から一旦とりまとめ、図などの資料を作成した。
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Strategy for Future Research Activity |
事前の資料準備、プレパラート作製は終了しているため、弘前大学に出張のタイミングを見計らって、EDS-SEM分析を進めることが第1課題である。宮城県産業技術総合センターにて4割程度の分析を終了していることから、3日間の分析を2回程度行えば、弘前大学での分析は完了する見込みで考えている。漆器の表面と内面のEDS-SEM分析データが出揃った段階で、資料の型式学的特徴や樹種との比較を行いたい。また、塗膜構造の分類については、さらなる理解を深めるため、龍谷大学の北野信彦先生にご教授願いたいと考えている。 保存処理方法については、生花用吸水スポンジを試料とした実験の結果を精査し、実資料への適用に臨みたい。また、得られた実験結果については日本文化財科学会でポスター発表を行いたいと考えている。 宮城県内の出土資料の収集の過程で、近世漆器の高台内の銘について同一・類似・特徴的な資料を集められた。そのため近世文字の判読について、史学的知見をお持ちの研究者から協力を得たいと考えて、高台銘について取りまとめたいと考えている。
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Causes of Carryover |
本来であれば、弘前大学へ日帰り出張1回、2泊3日の出張を2~3回する予定であった。そのうち日帰り出張1回は行えたが、コロナ第6波の影響、さらに3月の地震による新幹線不通のため、残りの出張を延期せざるを得なくなった。そのため、出張費に残りが生じた。資料準備は完了しているため、コロナの状況改善後、速やかに出張し、EDS-SEMによる測定を行う。 また、県内移動で利用できるEDS-SEMを探し、宮城県産業技術センターにて該当する機器があり、借用し測定することに計画の一部を変更した。しかし、借用予定のEDS-SEMの試験的測定をしたところ、故障中で我々が希望する測定ができないことが判明した。そこで産業技術総合センターから、本来は貸し出していないタングステンSEMを貸し出して頂き、数回の測定を行った。本来は貸し出していない機器のため料金を徴収する必要がないとのことで、機器使用講習料及び時間利用料金が発生しないこととなり、その分の機器利用料が不要となった。その分は、X線CTの撮影回数を増やし、より多くの資料測定をして、保存処理条件の判断基準にするようにしたい。
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Research Products
(1 results)