2023 Fiscal Year Research-status Report
美術作品や歴史資料中の膠着剤の同定法の構築―方法の改善・発展と実践
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19K01133
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Research Institution | The National Museum of Western Art, Tokyo |
Principal Investigator |
高嶋 美穂 独立行政法人国立美術館国立西洋美術館, 学芸課, 特定研究員 (80443159)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
谷口 陽子 筑波大学, 人文社会系, 准教授 (40392550)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 膠着材 / ELISA / 自然劣化 / 強制劣化 / 検出限界 / アラビアガム / 卵 / 膠 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度も引き続き自然劣化させた(約6年経年)自作絵画レプリカサンプルをELISA法で分析するとともに、一部のレプリカサンプルについてはさらにキセノンウェザーメーターで紫外線強制劣化させ、ELISA法で分析した(絵画レプリカサンプルは、各種顔料+4種の膠着材(卵黄、牛皮膠、ミルクカゼイン、アラビアガム)で作成したものである)。 ELISAで陽性反応が得られた下限のサンプル希釈濃度を便宜的に「検出限界」として示すことで各種サンプルの検出限界を比較したところ、自然劣化では限界が低くなった(検出しやすくなった)ものと変化しないものが多かった。各顔料による影響は明らかではなかった。 UV劣化では、多くのレプリカサンプルについてUV劣化により検出限界が高くなる(検出しにくくなる)ことを予想していたが、変化しないものが多かった。自然劣化同様、各顔料による影響は明らかではなかった。 自然・UV劣化した絵画レプリカサンプルのELISAでの検出限界濃度を比較すると、おおまかに言ってアラビアガムとカゼインの検出限界は低く、卵黄と牛皮膠の検出限界はこれらよりもかなり高いことがわかった。UV劣化後、もっとも検出限界が低いサンプルと高いサンプルの差は10000倍もあったため、実サンプルにおいてもアラビアガムやカゼインは検出しやすく卵黄や牛皮膠は検出しにくいと予想できることがわかった。 卵黄の検出については、卵黄中の主要タンパク質であるホスビチンではなく卵白中の主要タンパク質であるオブアルブミンの抗体を用いているために検出限界が高くなっていると考えられるが、抗ホスビチン抗体を用いた場合にはさらに検出が悪くなることが判明したため、現時点では抗オブアルブミン抗体を用いることにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
特に昨年度まで、コロナ禍のために遺跡などでの現地調査や博物館・美術館所蔵作品の調査が進まず、分析に供する実資料の入手ができなかったこと、そして、強制劣化試験についても外部機関に依頼しにくかったことによる。
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Strategy for Future Research Activity |
2024年度は、1)絵画レプリカサンプルの高湿度環境での強制劣化とELISA法での分析、2)紫外線強制劣化および高湿度強制劣化したサンプルのLC-MS法での分析、3)ELISA法、LC-MS法で検出不可能なパターンの抽出、4)実資料の分析、を進める。
これまでと同じく、ELISA法、GC-MS法は研究代表者(高嶋)が担当、LC-QqQ/MS法、LC-QTOF法、アミノ酸分析は研究協力者である(株)ニッピ・バイオマトリックス研究所の多賀、熊澤が担当する。研究分担者である谷口は、実資料の調達・調整ほか、実資料の顕微鏡観察などを担当する。
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Causes of Carryover |
研究代表者が研究分担者をつとめている他の科学研究費助成事業の費用にて本研究でも使用する物品類を購入することができたため、本科研費を使用せずに研究を実施できた。また、サンプルの紫外線強制劣化にあたって、先方機関のご厚意で無償で依頼することができたため、そのための費用が余った。 本年度は抗体・薬品類の購入と、サンプルの高湿度での強制劣化を実施する予定である。
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Research Products
(2 results)