2019 Fiscal Year Research-status Report
塩類風化が進行する遺跡構成材料からの効果的な脱塩方法の開発
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19K01135
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Research Institution | Nara National Research Institute for Cultural Properties |
Principal Investigator |
脇谷 草一郎 独立行政法人国立文化財機構奈良文化財研究所, 埋蔵文化財センター, 主任研究員 (80416411)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 脱塩 / 浸透圧 / 蒸気圧降下 / 湿布材 / 塩類風化 / 糖 / パルプ / 水分移動 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は磨崖仏や横穴など遺跡地盤に塩類が含まれる一方で、地盤への水分供給を絶つことができない立地条件にあるため、塩類風化が進行している遺跡を対象として、劣化要因である塩を効率的に除去する手法の開発を目的とする。 脱塩をおこなう手法として、今年度は試験体表面にフレーク状パルプを貼る湿布法を基本とした。湿布法の課題点として、湿布材の乾燥によって、1)脱塩対象との接着が低下する、2)水分移動性状が低下するため、長期の脱塩効果が困難である、3)湿布材の乾燥によるマトリックポテンシャル勾配のみを駆動力とする水分移動であること、が挙げられる。今年度はパルプ中の水分に溶質を添加することで発生する蒸気圧降下と浸透圧を利用し、その乾燥抑制と同時に浸透圧勾配による水分移動で長期の脱塩が可能となるか検討した。 今年度は溶質として糖類のトレハロースとスクロースを、これらより巨大な分子に水溶性デンプンを用いた。これらに対して数種の濃度の水溶液を調製し、パルプに添加したものを湿布材とした。 脱塩材の寸法安定性ではトレハロース、次いでスクロースが優れる一方で、高濃度水溶液が得られないでんぷんでは寸法安定性が見られなかった。次いで、トレハロースとスクロースをそれぞれ添加した湿布材を用いた脱塩についての予備実験を実施した。φ50mm×100mmの溶結凝灰岩円柱試料を2wt%のNaCl水溶液に浸漬し、塩水で飽水処理をおこなった。その後、側面と下端に対して断湿処理をおこない、上端のみ水分移動可能とした。これらに半透膜としてセロファン、および上記の湿布材を添加し、20℃、59%RHの恒温恒湿環境下で脱塩を実施した。設置後、7日、13日、および20日後に脱塩材を取り出し、脱塩材中の塩を再抽出して、イオンクロマトグラフィを用いて塩濃度を定量した。予備実験の結果、スクロースにおいて有意に脱塩効率が増加した結果を得た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
脱塩実験に関する予備実験を実施するとともに、熱、水分、溶質移動を連成して計算するモデルについては、塩類風化が進行する磨崖仏の調査研究を共同で実施している研究協力者が著しい成果を上げていることから上記の区分が妥当と判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでに実施した脱塩に関する予備実験を発展させて脱塩に関する実験を実施する。具体的には下記の項目に従い研究を実施する。 1)塩化ナトリウム水溶液に浸漬した凝灰岩円柱試料に対して、半透膜を介して糖類などの溶質を含む水溶液および粘土鉱物を混和したパルプを添付して脱塩実験をおこなう。実験は恒温条件下で、湿度条件を変えて実験をおこなう。実験後のパルプに含まれる塩を純水に再抽出した後にイオンクロマトグラフィを用いて定量し、各溶質および粘土鉱物に対して脱塩効率の比較をおこなう。また、湿度条件すなわちパルプからの水分蒸発速度が脱塩効率におよぼす影響について検討をおこない、実際の現場において脱塩を実施する際に適した温熱環境について検討する。 2)脱塩の実験中および終了後の石材試料に対してX線CTによる鉛直断面撮影をおこなう。CT画像解析から石材と塩の固相、液相、気相の画分をおこない、材料内部での塩析出の有無、それによって引き起こされる石材試料のひずみの有無について検討する。 3)上記脱塩実験結果については、研究協力者との間で開発を進めている熱・水分・塩移動解析モデルへフィードバックをおこない、解析モデルの精度向上に還元する。また、構築されたモデルの計算結果と上記脱塩実験の結果から、脱塩を実施するのに適した温熱環境の推定をおこない、研究フィールドである磨崖仏において効果的な脱塩を実践する。
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Causes of Carryover |
3月にモンゴルで開催される予定であったシンポジウムの旅費を確保していたが、新型コロナウィルスの影響で中止となったため旅費として支出できなかったことによる。 使用目的を変更し、今年度の実験機材、ひずみゲージなどの購入に充てる予定である。
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Research Products
(2 results)