2019 Fiscal Year Research-status Report
地域植物誌の証拠標本を、学校教育における活きた資料として活用する試み
Project/Area Number |
19K01140
|
Research Institution | Gifu University |
Principal Investigator |
須山 知香 岐阜大学, 教育学部, 准教授 (40464044)
|
Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
Keywords | 植物標本庫 / 標本の有効活用 / 標本情報データベース / 岐阜県植物誌 / 体験的学習 / 教材開発 / 次世代育成 / 理科教育 |
Outline of Annual Research Achievements |
岐阜県では、2002年より市民主導で植物分布の調査活動が行われ、岐阜大学および岐阜県博物館の植物標本庫に約20万点の植物標本が蓄積されている。これを元に、現在も基礎的研究活動の推進と、岐阜県内の絶滅危惧種や外来種の分布についての情報収集・発信が行われており、2019年8月には、その成果である『岐阜県植物誌』が刊行された。標本情報は、現在、簡易な標本リストになっている。しかし、長年の調査研究活動のなかで再同定された結果を反映できていないデータや、採集情報の再検証が必要であるものが少なからず存在している。 本研究では、まず、市民・大学・博物館の連携により蓄積された、地域の自然史資料である植物標本の情報データベースを整える。次に、小・中学校および高等学校・大学における、実物を使用した体験的な授業や実習での教材を開発し、また各地で開催される展示会や学習会などの教育活動の資料として植物標本を利用することで、地域の自然への興味関心を高め、次世代の自然愛好家や研究者を育むことを目的とする。 文部科学省の定める学習指導要領では、理科教育においては体験的な学習活動をよりいっそう充実することにより、生命を尊重し、自然環境の保全に寄与する態度を養うことを大きな目標として掲げており、それには自然に直接関わることが重要であるとしている。こうした直接体験を充実する方法として、それぞれの地域で自然の事物を適切な教材として積極的に活用することが求められている。 長年かけて多大な労力の元に大学および博物館へ集まった質の高い植物標本を、学術的資料としての利用のみならず、次世代を担う児童、生徒、学生にとってより有益に活用していく方法を研究開発することは、植物調査にたずさわったメンバーの願いであり、今後も標本を維持管理していく機関の責務であると考える。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
【植物標本の情報データベース整備】として、2019年度には、既存の植物標本の簡易データ一覧と、大学・博物館に収蔵されている証拠標本を照合する作業を行い、現在も進行中である。疑問のあるデータについては、個々に研究会員への聞き取り確認、一部の物は現地での再調査等を行っている。また、博物館・植物研究会と標本情報の確認・交換を行うとともに、各市町村の自然環境保護関連部署や研究者等からの要望に対して、情報開示の可否やレベルを判断したうえで、適切な提供を行った。 【実物を使用した体験的な授業や実習での教材開発】では、2019年度までに行った岐阜市及び県内各所の校庭の植物調査の報告を準備している。また、これまでに教員へ実施したアンケートの結果をうけて、現場の教員がすぐに使うことのできる「授業指導案および解説書付 岐阜を学ぶ植物標本セット」、「学校の校庭の草花を調べる植物標本セット」の開発を進めている。2020年度当初には、2019年度末までに開発した「植物標本を利用する授業案(小3および中1対象)」を研究協力校で実施する予定であったが、本学部では感染症予防対策のため2020年7月末まで教育実習を行わない方針となったため、延期している。 【展示会や学習会等への植物標本の活用】として、教育学部附属郷土博物館植物標本庫の収蔵標本より、地域固有種や絶滅危惧種など、教育効果を考慮して選定した4点(4種)を、2019年6月1日よりオープンした「岐阜大学学術アーカイブズ アーカイブ・コア」へ常設展示し、多くの学内外の利用者に観覧されている。また、美濃加茂市民ミュージアムとの連携企画展「岐阜大学コレクション―「岐阜県」を知るために―展」では、地域固有種・絶滅危惧種5点(4種)を美濃加茂市へ貸出し、2019年12月14日~2020年3月1日(79日間)展示を行い、多くの観覧者が集った。
|
Strategy for Future Research Activity |
【植物標本の情報データベース整備】として、引き続き植物標本の簡易データ一覧と、大学・博物館に収蔵されている証拠標本を照合し、疑問のあるデータについては、その精査を行う。博物館・植物研究会と標本情報の確認・交換を行うとともに、各市町村の自然環境保護関連部署や研究者等からの要望に対して、情報開示の可否やレベルを判断したうえで、適切に提供する。 【実物を使用した体験的な授業や実習での教材開発】では、現場の教員がすぐに使うことのできる「授業指導案および解説書付 岐阜を学ぶ植物標本セット」として、小中学校の授業で利用できて返却不要とするための植物標本を作成する。また、「学校の校庭の草花を調べる植物標本セット」では、岐阜・愛知を中心として利用可能な、子供が自分で種類を調べることのできる「身近な草花図鑑」の草稿を、試用版として利用検証を行う。さらに、研究協力校での実習が可能になり次第、開発した「植物標本を利用する授業案(小3および中1対象)」を実施し、児童・生徒における学習事項の定着度や、自発的で深い学びとなっているかを、アンケート調査及び自由記述等のデータマイニング法を用いて問題点・改善点を明確にし、より効果の高い教育プログラムを開発していく。 【展示会や学習会等への植物標本の活用】として、教育学部附属郷土博物館植物標本庫の収蔵標本を、令和2年8月17日(月)~10月7日(水)の期間で岐阜県博物館移動展「岐阜大学と岐阜県植物誌」に展示する予定である。また、岐阜県植物研究会主催の地域植物誌研究についてのシンポジウム他、植物標本を展示に活用する機会が多数予想されているので、幅広い年齢層を対象として企画を立て実施していく予定である。
|
Causes of Carryover |
研究計画のうち、標本情報データベースの精査、研究協力校でのモデル授業の実施などが、人員確保及び年度末の感染症予防対策のために、やや遅れ、次年度に実施を予定しているため。
|