2019 Fiscal Year Research-status Report
博物館資料に基づく東京湾産十脚甲殻類相の推移と環境変遷
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19K01146
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Research Institution | Natural History Museum and Institute, Chiba |
Principal Investigator |
奥野 淳兒 千葉県立中央博物館, その他部局等, 研究員(移行) (60280749)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 自然史標本 / 東京湾 / 甲殻類 / 明治時代 / 横浜 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、明治から昭和の戦前にかけて東京湾で採集された十脚甲殻類標本を精査し、大規模な沿岸域開発以前の十脚類相を推定する。同時に、これらを現在の同水域で新たに収集した標本と比較し、地域個体群の絶滅が認められる種類や個体群を維持している種類を検討することによって、その推移を解明する。 令和元年度は明治時代に東京湾で採集されたコレクションを収蔵するドイツ共和国のミュンヘン動物学収集博物館、およびイギリスのロンドン自然史博物館において標本を調査した。前者は K. A. Haberer ならびに F. Doflein によるコレクション 、後者は Challenger 探検航海やお雇い外国人として日本に在住したイギリス人技師 H. B. Joyner による収集品に由来する。これらの標本群には当時海外との交易の窓口になっていた横浜で採集された種類が多く、1901年の横浜市第一次市域拡大前後に干潟やアマモ場で採集されたと思われる個体が含まれていた。このようなハビタットは1900年に出版された『東京湾漁場図』に示された環境と一致し、大規模開発によって環境とともに失われた種類が本研究によって改めて確認された。また、明治時代の魚市場で採集された水産重要種の標本は、水産調査報告第7巻 (1898) に記録されている種類の証拠標本としての価値を備えるものと判断された。十脚類相の変遷を詳細に検討できると考えらることから、現存する種類の新たな標本の採集地を横浜に絞り込んだ。開発によって高度経済成長期以前と環境が激変している横浜市中区を中心とした市街地でサンプリングを行ったところ、想定していなかった陸水域において明治時代に得られた標本と同じ種類を採集することができた。 さらに、東京湾で採集されたコエビ類を正確に同定するため、イギリスのケンブリッジ大学動物学博物館でタイプ標本の再調査を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初予定していたミラノ市立自然史博物館を訪れることができなかったため、明治から大正にかけて横浜に在住していた A. Owston によるコレクションの再調査が遅れている。文献調査からは K. A. Haberer によって収集された東京湾産十脚甲殻類標本が他の西欧博物館にも保管されており、調査対象となる標本の総数は当初の見込みよりも多いことが判明した。また、Haberer の日本滞在時の詳細は知られていなかったが、標本収集を行うにあたり横浜市内で居住していた場所や交流関係が明らかになった。このことは、地域が歩んできた歴史への興味・関心を高めるための社会教育活動プログラムの材料になると思われ、今後この人物についても掘り下げていく考えである。 横浜の海岸や河川感潮域において新たな標本の収集を試みたが、予想よりも出現種類数が少なかった。採集方法を改善する必要がある。陸水に生息するサワガニに関しては、明治時代に採集されたロンドン自然史博物館蔵の標本を調べると同時に、横浜市中区で新たに採集された標本を調査することができた。このことからサワガニは環境の著しい変化にもかかわらず横浜市街地で個体群を維持していることが示唆された。 所属する博物館の普及刊行物『海の生きもの観察ノート15 千葉県でみられるカクレエビたち』を編集・執筆した。同書に東京湾で採集されたオシャレカクレエビを掲載したが、従来本種に対して適用していた学名の誤りがケンブリッジ大学動物学博物館でタイプ標本を調べたことによって判明したため、有効名を変更した。また、バルスイバラモエビは、これまでに知られている千葉県産の唯一の証拠標本がミュンヘン動物学収集博物館に所蔵されている東京湾産の個体であるため、同書にその写真を図示した。
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Strategy for Future Research Activity |
西欧の自然史博物館において、明治時代に東京湾で採集された十脚甲殻類コレクションの調査を継続する。また、国内の博物館や教育機関に保管されている高度経済成長期以前の東京湾で採集された標本の調査を行う。その比較のために横浜沿岸で新たに標本を採集するにあたり、現在運営されている漁業形態や、効率よく標本を入手するための器材を調査する。併せて、横浜において個体群を維持している種類の保全について、社会教育活動プログラム開発のための研究をする。また、研究成果を博物館活動を通して還元する目的で展示のための構成を検討し、令和元年度に収集した標本の一部の剥製を制作する。
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Research Products
(4 results)