2023 Fiscal Year Research-status Report
リモートセンシングおよびGISによるニヴフの植物資源採取における空間利用の解析
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19K01240
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Research Institution | Hokkaido Museum |
Principal Investigator |
水島 未記 北海道博物館, 研究部, 学芸主幹 (70270585)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
丹菊 逸治 北海道大学, アイヌ・先住民研究センター, 准教授 (80397009)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 民族植物学 / 植物利用 / 民俗名称 / 植物名 / サハリン / アムール川河口域 |
Outline of Annual Research Achievements |
当初計画で予定していたサハリン北部およびアムール川河口域での現地調査が新型コロナウイルス感染症の流行などにより実施できず、令和4年度の代替調査実施を目指したが感染症流行の継続およびロシアのウクライナへの軍事侵攻により実現不可能となり、研究期間を延長した。感染症はほぼ終息した一方でロシアの戦争状態は続き、令和5年度も現地調査は不可能であったため、当年度は前年度までに引き続いてサハリンおよび隣接地域の自然環境・自然利用文化等に関連する情報、リモートセンシング等に関連する技術的な情報、ニヴフおよび近隣の先住民の伝統文化に関する情報の収集を行い、次年度の現地調査実現に一縷の望みをかけていた。 しかしながらその可能性も極めて低くなったため、当初目指していたリモートセンシングのデータに基づく分析は困難であるとの判断に至った。このため、並行して新たに研究組織外の研究者の協力を得ながら、現地での野外調査を行わずに遂行できる研究手法を模索した。研究組織内外の研究者とのオンラインを主体としたブレインストーミングの中で、古い文献に見られるニヴフおよび近隣の先住民の植物の民俗名称を分析・比較することで、間接的にニヴフの伝統的な植物資源利用について把握でき、かつ、それをもたらした環境的な要因について、その一部でも推測できるという新たな視点を見いだした。中でも、1868年に刊行された植物相調査の報告の中で相当量の植物の民俗名称が記録されているとの情報を得て、この文献を主な対象として分析を進めた。 また、一般市民への普及として、前年度に続いて研究代表者の所属博物館の企画展内に「サハリン先住民族の暮らしを支えてきた湿原」というコーナーを設け、サハリン先住民族の植物採集の場として最も重要な湿原に関して、環境や利用植物、利用法等に関して、過去に採集した実物標本および写真を多数用いて紹介した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
上記のとおり世界的な新型コロナウイルス感染症の流行およびロシアのウクライナ侵攻により当初計画していた現地調査がまったく実施できず、現地データが得られなかった。 このため現地での野外調査を行わずに遂行できる研究手法を模索し、最終的に文献の分析による調査を開始したが、これに関してはまだ分析の途上にあり、研究期間全体としては「やや遅れている」と言える。 このため、再度の期間延長を行った。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究課題はサハリン北部およびアムール川河口域での現地野外調査の実施を前提とした内容で計画していたが、これが実現できない状況である。令和6年度も現地調査は不可能である前提で、研究計画を大きく見直さざるを得なくなった。上記のとおり、前年度から19世紀の文献の分析を主体とした研究という野外調査を行わずに遂行できる研究手法にも着手したが、こちらの手法に注力する方針に切り替え、引き続き研究を進める。研究は研究組織外の言語学分野の研究者の協力を得て、共同で行う。 分析の対象とする文献は主に1868年に刊行されたアムール地域とサハリン島の植物相調査に関する報告である。まず、同報告の中で記録されているニヴフ語・ウイルタ語・サハリンアイヌ語の植物の民俗名称が現在の植物分類においてどの種(あるいはグループ)に相当するのかを、日本側の最新の文献に基づいて同定し、リストを作成する。その上で、言語間の借用関係などを分析することにより、植物資源利用文化における各植物種の位置づけなどを分析する計画である。 8月にイエナ(ドイツ)のマックス・プランク人類史科学研究所で開催予定の国際シンポジウムでその成果の一部を発表し、参加する多分野の研究者と意見交換を行い、精度を高める。その後、分析結果を論文としてまとめる予定である。
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Causes of Carryover |
世界的な新型コロナウイルス感染症の流行およびロシアのウクライナ侵攻によりロシアでの現地調査が実施できなかったためである。 上記のとおり、現地調査を行わない代替手段を用いて研究を進める計画であり、そのため、次年度の使用額は、文献や関連資料の購入、翻訳等および国際シンポジウムでの発表のための旅費に用いることを計画している。
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