2020 Fiscal Year Research-status Report
「仲裁の消費者化」の法理・実態・展開過程:現代アメリカ「ビジネス保守」の法文化
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19K01242
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
会澤 恒 北海道大学, 大学院法学研究科, 教授 (70322782)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 私人による法実現 / 仲裁の消費者化 / 民事司法の縮小 / クラスアクションの放棄 / 制定法上の訴権 / 事件性の要請と事実上の損害 / 現代アメリカのビジネス保守 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、米国において、消費者契約や個別的雇用契約においても仲裁条項が普及していること(「仲裁の消費者化」)を踏まえた上で、それをめぐる実定法規範の構造と背景にある法文化・政治過程を検討するものである。 本年度は、制定法が私人に付与している民事訴権に関して、仲裁との相互作用により浮き彫りになるその意義について検討を継続した。米国では、議会が政策を実施するに際し、行政に執行を委ねるかわりに(あるいはこれに加えて)、私人に民事訴権を付与するという手段を選択する立法実務がある。そこでは、当該私人の主観的・私的な権利の実現のみならず、これを通じた社会一般の公益の実現も見込まれている。かかる訴権の仲裁付託可能性は現在では広く認められるに到っており、かつて判例が付していた条件や留保も今やほぼ忘れられている。このことと「仲裁の消費者化」とが相俟って、民事訴権付与を通じた法執行の効果が弱められている。仲裁手続の特徴の一つである密行性は、公開の法廷における訴訟手続と異なり、違法行為を告発する効果を減殺する。かかる民事訴権は、当初はもっぱら民事訴訟を通じた実現が想定されていたにもかかわらず、当事者の自由な処分に委ねられることから、その後の仲裁等の発達がかかる立法実務の意義を歪めるに到っている。 関連して、かような民事訴権を主張する者の原告適格という論点との連関も認識された。連邦裁判所の取扱対象は「事件」すなわち「事実上の損害」を伴う利害対立であることが憲法上要求される。たとえ議会が私人に民事訴権を付与した場合であっても、当該私人が「事実上の損害」を被っていないならば、その原告適格は否定される。だが、これはもっぱら連邦司法権に関する要請であると考えると、仲裁等で私的に処理する分にはかような制約を受けず、その意味で法実現回路の拡張として位置付けることができるかも知れない、との見通しも得られた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2020年度はアメリカ合衆国へ渡航して仲裁(特に消費者仲裁)のあり方に関する現地での実態調査を行うことを中心的作業として予定していた。しかし、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行に伴い、所属機関の行動指針により海外渡航が認められず、また渡航予定先においても入国制限措置および入国後の行動制限を行っていたことから、現地調査を行うことを断念した。オンラインでの調査の可能性を探ったが、彼我双方の状況の混乱もあり、十分な成果を得られなかった。文献調査により可能な作業を進めたが、当初計画通りの成果に達しなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
現地調査の障害となっている新型コロナウイルス感染症に伴う内外の社会情勢については予断を許さないものの、渡航予定先であるアメリカ合衆国においては急速にワクチンが普及し、行動制限が解除される可能性も示唆されており、2021年度中盤には状況の改善が期待される。また、オンライン会議が普及したことから、海外の研究者・実務家との連絡・交流のハードルが下がったこともあり、まずはこの回路を通じて情報収集を試みた上で、年度中盤~後半に機を見て現地調査を実施することを検討している。
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Causes of Carryover |
2020年度はアメリカ合衆国に渡航しての現地調査を中心的作業して計画し、そのための海外渡航費が予算の主要部分を占めていた。しかし、しかし、新型コロナウイルス感染症の流行に伴い、所属機関の行動指針により海外渡航が認められず、また渡航予定先においても入国制限措置および入国後の行動制限を行っていたことから、現地調査を行うことを断念せざるを得ず、そのための予算執行ができなかった。同様に、所属機関の行動指針により国内出張についても差し控えることが求められたため、国内出張旅費についても執行ができなかった。 出張を伴うヒアリング・研究会出席・打ち合わせについては、一部をオンライン会議で代替することで経費が節減された。今後も同様の機会は多くなると考えられることから、そのためのIT環境の整備・拡充のための設備・備品を調達する予定である。 他方で、オンライン会議では十分に意見交換を尽くせない面も残る。現在、急速にワクチンが普及し、行動制限が解除される可能性も示唆されており、2021年度中盤には状況の改善が期待されることから、年度中盤~後半に機を見て現地調査を実施することを検討している。
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Research Products
(1 results)