2021 Fiscal Year Research-status Report
「社会法」概念の系譜学的再検討ー「社会」は「法的主体」をどのように構成してきたか
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19K01248
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
波多野 敏 名古屋大学, 法学研究科, 教授 (70218486)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | フランス法制史 / フランス革命 / 社会契約 / 連帯 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、昨年度に引き続き革命期の奉公人の法的な位置付けについて検討を進め、その成果の一部は、学術論文「フランス革命期における政治的権利と奉公人」として公表した。 アンシャン・レジームの社団国家、身分制に基づいた法システムは、革命直前のチュルゴーらの重農主義的な政治システムの改革構想によって大きく変貌する。重農主義的構想は、土地所有を基盤に政治的・法的主体を考えており、アンシャン・レジーム的な身分、社団を基礎とする考え方を大きく超えるものであった。さらに、革命期になると、土地だけでなく、労働を経済基盤として、自立した意思を持つ存在としての個人を政治的・法的主体と考えるようになる。法的主体の基礎は、財産所有から独立した意思へと変わるのである。 こうした変化の背景には、直接的にはシェイエースの「働く人」としての第三身分を国民を同一視する見方があるが、さらにその背景には、個人の意思を基盤とする社会契約的な考え方が新国家形成の基礎とされたことがある。新しい国家は、自立した意思を持った個人の契約によって形成されるのである。しかし、これは自立した意思を持たないとされる「奉公人」が政治的権利から排除されることにもつながった。 もっとも自立した意思と言っても、これは厳密に検証できるわけではなく、一般的な「奉公人」という言葉の惹起するイメージに基づいて議論されている。「奉公人」のイメージも論者によって異なっており、また「奉公人」に限らず、有産者であっても自立した意思を持たない可能性も指摘されるが、政治的権利についての議論も、こうした点について議論が深められることはないまま進められていく。自立した意思を持つ存在というイメージが基盤となってはいるが、この点について厳密に検証することはほぼ不可能であり、この後イメージの変化する可能性が大きいことも確認できた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
フランスの文書館における調査はできていないが、印刷資料についてはほぼ予定通り検討が進んでいる。革命期についても議会議事録や当時の政治家の著作などを検討することでおおむね予定通り研究を進めることができた。この際には、不十分ながら以前に収集した革命期の行政文書なども利用できている。 最終年度はできればフランス文書館での調査を行い、19世紀の選挙制度の実態についても検討したいが、それができない場合でも印刷資料とこれまでに収集した行政資料で相当な部分は検討可能であるという見通しは得られている。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度は、革命期に人権宣言などを中心とした法システムに、社会契約論がどのように関わっているかを改めて整理し、革命期の議論と準契約の観念を援用する世紀末の連帯論との関係を明らかにする。 社会契約が個人の意思からなるものだとすれば、社会契約の参加者はそれぞれ自立した意思を持つことが前提とされる。社会契約論と意思主義は密接な関係があるが、個人の自立した意思を想定することで、法的主体として認められず、「社会」に包摂されない人間が出てくるのだが、こうした点について、より一般的な革命期の法システムの問題として整理する。 革命期の「自立した意思」は厳密に考えられているわけではなく議員たちで共有されているイメージに頼っているところが大きい。一方で、世紀末の連帯論は「準契約」という理論を援用することで、さらに多くの個人を法的政治的な主体として社会に包摂しようとするのであるが、他方で、「自立した意思」を持つ主体とそうではない主体との境界も微妙にずれていくものであることが予想される。こうした点に着目しながら、革命期に社会から排除された存在が、19世紀末までどのような形で社会に包摂されていくかについて検討する。
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Causes of Carryover |
Covid19により、フランス文書館での調査ができなかったために、その旅費分を実質的に次年度へ繰り越した。
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Research Products
(1 results)