2022 Fiscal Year Research-status Report
「社会法」概念の系譜学的再検討ー「社会」は「法的主体」をどのように構成してきたか
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19K01248
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
波多野 敏 名古屋大学, 法学研究科, 教授 (70218486)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 連帯主義 / リスク / 社会法 / 労働者 / 法的主体 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、主に19世紀は半ばから20世紀初頭にかけての労働者など自立に十分な財産を持たない者の法的なイメージについて検討した。 革命期には、働く者である第三身分が国民となるとされ、財産を持たない労働者もまた労賃を得ることによって自立する者として理論上は市民権を認められた。その後、王政復古の時代などには事実上財産所有者だけが市民権と持つことになったが、1848年革命以降、成人男子普通選挙が認められるようになる。19世紀半ばの労働者は、一方で貧しく自立することの困難な者として慈善の対象となり、他方で働く意志を持たない「危険な階級」として警察的な取り締まりの対象となる。労働者は一応の市民権を認められながらも、その社会的地位は極めて不安定であった。 世紀末になると、自由主義的な図式は連帯主義などによって修正されていく。連帯主義のもとでは、諸々の社会保障制度によって労賃から一定の拠出をすることによって、失業、疾病、老化などのリスクに備えることができるようになる。最初はこうした保障も全く不十分であり、保障が実質化するのは20世紀の半ば以降になるが、少なくとも理論上は、一定の拠出などの「義務」を果たすことでリスクが顕現したときに援助を「権利」として要求できるようになる。ここで、法的主体は自立した個人から連帯関係の中で一定の義務を果たす者に変化する。 こうした変化は、社会保障的な制度だけで起こっているのではなく、伝統的な民法や刑法などの法領域でも不法行為法におけるリスク責任論や、処罰の個別化などが進展するなど、社会法の形成と言いうる、法的思考全般の構造的な変化が起こっている。こうした法的思考の変容の中で自律の基盤が変化し、都市労働者など必ずしも十分な財産を持たない者も、法的な主体として社会を構成する市民となる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
革命期の社会契約論と世紀末の連帯主義との構造的な相違点、類似点を整理しつつ、19世紀前半の自由主義的な理論から世紀末の社会法的な理論への変化は概ね明らかにすることができた。Covid-19の流行もあってフランスでの公文書の調査はできていないが、19世紀の労働者の状況などを調査した公的な報告書は印刷されPDF化されているものも多く、こうした報告書を見ることで公文書の調査のかなりの部分はカバーできたと考えている。 こうした調査をもとに社会法の観念もほぼ整理できているが、最終的に研究成果をまとめるにあたり、もう少し資料を探索し確認する必要があり、一年の延長をお願いした。 一部、公文書の調査をさらに行った上で、採取研究成果をまとめることを予定している。フランスでの調査が十分にできず一年延長したが、代わりにネット上の資料などを利用することで研究自体はほぼ支障なく進展している。次年度には最終的な研究成果を取りまとめることができると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は、革命期の社会契約論的な発想と、連帯主義における準契約の考え方との相違点などを整理し、革命期から19世紀前半の自由主義的な図式との「自立」の捉え方の相違などを明らかにした上で、社会法の理論構造を整理する。その際、これまでに検討したコンドルセ、シェイエスとブルジョワ、サレイユその他の思想家、政治家、法律家などの著作だけでなく、各種の公文書の叙述の背景にある法理論的な構造を明らかにした上で、自由主義的な図式とは異なった社会法的な法的主体の構造を明らかにしたい。
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Causes of Carryover |
期間中のCovid-19の流行により、予定していたフランス国立文書館などにおけるマニュスクリプトの調査が行えなかった。旅費に予定していた予算の一部が使用できず、今年度の資料調査、収集のための費用に充てることとした。
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