2021 Fiscal Year Research-status Report
贈与契約の拘束力と効力-無償契約の性質決定と契約の解釈に関する比較法的研究
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19K01360
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
池田 清治 北海道大学, 法学研究科, 教授 (20212772)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 無償契約 / 贈与 |
Outline of Annual Research Achievements |
従前研究が乏しかった無償契約について、特にその代表例である贈与契約を素材としつつ、①無償性が贈与契約の拘束力にいかなる影響を及ぼすのか、②契約内容を解釈する際、無償であることがどのように機能するのか、という2つの観点から、比較法的検討を交えつつ考究し、それを踏まえた上で、③無償契約の拘束力及び効力の背景原理を究明し、これに基づく解釈論的及び立法論的提言をすることを目的とする本研究プロジェクトにあっては、令和3年度、基礎的・文献的研究に注力し、次の2つの貴重な知見を得た。 第1は、諸外国においては、客観的に見れば、対価のないように見える契約であっても、「無償性の合意」という主観的概念を用いて、当該行為を「贈与ではない」と性質決定した上、要式性を克服する試みがされているが、日本では、学説にあっては「無償性の合意」が贈与の要件として語られているものの、裁判例においては全く機能していない、という事実である。これは「書面」ないし「履行」概念を拡張する要因として作用しているものと推察され、日本の裁判例を分析する際、1つのキーポイントとなる。 第2は、贈与の解除権が相続されるのか、という問題視角を獲得したことである。贈与に公正証書を要求するフランスやドイツにあっては、その趣旨は単に贈与者を保護することだけでなく、贈与者の相続人を保護するという機能も有しているが、日本では「書面」という方式はもっぱら贈与者の注意喚起を目的とするものと理解されており、贈与者の相続人を保護するためのものとは考えられていない。そして、実際に裁判例を見るなら、贈与者の相続人がする解除の主張は、「書面」ないし「履行」の存在を理由にことごとく退けられている。相続人による解除の主張は被相続人の意思を踏みにじるものと考えられているためであり、これも「書面」ないし「履行」概念の拡張要因として位置づけられよう。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
進捗状況については、コロナ禍との関係から、海外出張することができず、その意味では当初の予定と異なる状況にあり、補助事情期間を延長することにした。しかし、上記のとおり、極めて貴重な知見を得ることができ、また新注釈民法についても、具体的な執筆に取りかかっていることから、「おおむね順調」ということができる。 なお、公表された論稿がないのは、新注釈民法に注力しているためである。
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Strategy for Future Research Activity |
令和4年度については、とにかく新注釈民法の脱稿を第1の目標としたい。上記のとおり、549条及び550条という贈与の骨格をなす条文については、その基本的なスタンスが定まり、裁判例の全体像も見えているので、一刻も早く学界の共有財産としたい。 また、第1の目標の達成後、延び延びとなっている海外出張も実施したいが、海外との交流がどの程度可能になるのか、さらに第1の目標との関係で、時間的余裕があるのかといった問題もあり、状況を見定めた上、判断したい。
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Causes of Carryover |
当初予定していた海外出張等につき、コロナ禍との関係から実施することができず、また文献的研究の成果を新版注釈民法に活かすべく、その執筆に注力する方向に本研究プロジェクトの力点を置いたため、次年度使用額が生じた。 令和4年度の使用計画としては、「8.今後の研究の推進方策」に記したとおり、新版注釈民法の脱稿を第1の目標としていることから、主としてそのために必要な文献及び資料の渉猟に充てるが、可能であれば、海外出張も実施したい。
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