2021 Fiscal Year Research-status Report
The drug policy of Nazi Germany and "Greater East Asia Co-Prosperity Sphere"
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19K01502
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
熊野 直樹 九州大学, 法学研究院, 教授 (50264007)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | ナチス・ドイツ / 「大東亜共栄圏」 / 麻薬政策 / 「満洲国」 / 阿片断禁政策 / 阿片供給基地 / 安楽死 |
Outline of Annual Research Achievements |
当該年度は、麻薬、とりわけ阿片を素材として「大東亜共栄圏」を中心に考察しながら、第二次世界大戦期のドイツと「満洲国」との関係を捉え直した。とりわけナチ阿片の来歴として、第二次世界大戦中、「大東亜共栄圏」における阿片の主要な供給基地の一つとなった「満洲国」に着目した。「満洲国」のいかなる政策の下、阿片が生産され、その阿片がどのような経緯でナチス・ドイツへ輸出されるようになったのか、を詳細に検討した。さらには「満洲国」をはじめ外国から輸入した阿片を中心とした麻薬をドイツがいかなる政策の下、どのような目的で使用していたのかを検討した。 「満洲国」では1937年以降阿片断禁政策を行い、熱河集中主義をとっていたが、1943年を契機として、阿片断禁政策を骨抜きにして、阿片の増産政策へ転じていた。熱河省以外にも罌粟の栽培地を拡張していた。「大東亜共栄圏」に属する阿片専売制を採る地域への阿片の配分を行なう必要があり、1943年春の大東亜省主催の阿片会議において「満洲国」に阿片の生産が割り当てられたことが直接的な要因であった。この経緯については、長年不明であったが、昨年刊行された山田豪一『続・満洲国の阿片専売』(汲古書院、2021年)が詳細に明らかにしており、大いに参考になった。今後、本書の研究成果を踏まえて1943年以降の「満洲国」の阿片政策のさらなる実態解明を行なう必要がある。 「満洲国」をはじめとした外国から輸入した阿片をナチス・ドイツは医療用の他に様々な用途に使用していた。その最たるものが、覚せい剤とモルヒネの混合物を兵士に配布し、兵士の戦闘力の維持のために使用していたということである。そうした薬物の人体実験がアウシュヴィッツ絶滅収容所でなされていた。また障碍者の「安楽死」や国防軍防諜部の外貨獲得のためにも密輸されていたのであった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当該年度は、第二次世界大戦中「大東亜共栄圏」において阿片供給基地の一つになっていた「満洲国」の阿片政策と「大東亜共栄圏」をはじめ海外から輸入したナチス・ドイツの阿片の使用の実態をさらに検討することが、主たる課題であった。 ナチス・ドイツは、戦時中、「満洲国」から阿片を大量に輸入していたが、阿片を通じての独「満」関係の詳細を実証的により明らかにすることができた。また、「満洲国」がいかなる政策の下、阿片を生産し、どのような経緯でドイツへ輸出されるようになったのか、また、第二次世界大戦中の独「満」の阿片貿易の実態はどうだったのか、さらには「満洲国」をはじめ外国から輸入した阿片をドイツはいかなる政策の下、そのような目的に使用していたのかを、新たな史資料の収集と分析によって、さらに明らかにすることができた。 しかも大戦末期における「大東亜共栄圏」内における阿片や麻黄を始めとした麻薬のゆくえについても明らかにすることができた。そこでは「大東亜共栄圏」における麻薬をめぐる独日「満」関係の実態をさらに明らかにすることができた。 以上から、(2)おおむね順調に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の推進方策として、ナチス・ドイツの阿片以外の麻薬政策、とりわけペルヴィティンと麻黄と「大東亜共栄圏」との関係について検討することが挙げられる。そのため、ナチス・ドイツのペルヴィティンを中心とした麻薬政策とその原料である麻黄の貿易の実態の解明が課題となる。 ナチス・ドイツがペルヴィティンを第二次世界大戦中にどのような用途で使用していたのか、その実態の解明が必要となる。また、そのペルヴィティンの原料である麻黄をどのようにして、「大東亜共栄圏」から輸入していたのか、その解明も必要となる。 さらに、ペルヴィティンを通じて第二次世界大戦期におけるドイツと日本との関係も考察する必要がある。これまで阿片と独日関係及びコカと独日関係については、第二次世界大戦中、独日間で阿片及びコカ貿易が行われていたことを明らかにしてきた。また阿片やコカを通じて、これらの麻薬貿易に関わった独日のアクターやその関係を実証的に解明してきた。しかし、これまでの研究においては、覚せい剤を通じての独日関係については、全く検討していないままである。そこで今後は、阿片やコカの他にペルヴィティンをめぐる独日関係の実態を明らかにする必要がある。以上を通じて、ナチス・ドイツの麻薬政策にける阿片、コカ、ペルヴィティンの相違や「大東亜共栄圏」におけるそれらの通商関係の相違について検討していくことが課題である。
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Causes of Carryover |
今年度も、新型コロナ感染拡大に伴う国内外の出張自粛のため、当初予定していた国内外の文書館等の史料調査・収集が全くできなかった。そのため当初予定した旅費を一切使用することができなかった。そのため次年度使用額が生じてしまった。 次年度は、状況を見て国内外での史料調査・収集が可能になれば、旅費として使用する予定である。それが難しい場合は、当該関係史資料を購入する予定である。
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