2019 Fiscal Year Research-status Report
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19K01779
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
藤村 聡 神戸大学, 経済経営研究所, 准教授 (00346248)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 企業史 / 経営史 / 内部統制 / 不祥事 / 高等教育 / 学歴格差 |
Outline of Annual Research Achievements |
戦前期商社を題材に、そこで発生した内部不祥事を通じて高等教育の意義の解明を長期的な課題にしている。先年は古河商事を大正9年に経営破綻させた「大連事件」を分析した。「大連事件」については東京大学経済学図書館に顛末調査が残されている。そこから「大連事件」が誰によって、どのように起こったのかが詳しく明らかになり、主犯となった大連出張所主任は非学卒者であることや、同人が二重帳簿や虚偽答弁で社内監査を逃れた過程を考察した。 次に、三井物産の『社報』を題材に、明治36(1903)年から昭和20(1945)年まで社内で発生した従業員の不祥事を整理し、その実態を分析した。その結果、不祥事である解雇事例の大部分は横領で、そのほか独断的に投機取引を続けて巨額の損失を招いた事例などを観察した。そこで判明した最大の注目点は、不祥事を起こした人員の大部分が非学卒者で、解雇事例21件のうち学卒者が起こした不祥事は4件に留まる一方で、非学卒者は16件(他に不明1件)に達し、従業員の学歴と不祥事の発生頻度には明確な相関が認められることを発見した。その観点から高等教育の意義として高い規律意識の涵養が想定されるという見通しを得た。 また、その背景として商社業務の特殊性も勘案しなければならない。商社は海外の営業拠点が不可欠である傍ら、当時の通信レベルは今日とくらべれば劣悪で、業務書簡は日本とオーストラリア間で直航船を利用しても2週間以上を要し、また電信は明治期から使われていたものの1語を打電するのに初任給1ヶ月程度の料金が掛かり、取引条件の簡単な伝達や緊急時の連絡にしか使われなかった。そのため海外駐在員には大きな裁量権が与えられ、同時にそうした事情によって駐在員には高い規律意識が要求されたのである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は主に三井物産で発生した内部不祥事の分析を進めるべく、三井文庫所蔵の諸史料を採集し、明治期の内部不祥事を「明治期の三井物産における従業員の処罰」(『国民経済雑誌』第220巻第3号、89-107ページ、2019年9月)に発表した。これで明治初年から第二次大戦直後まで50年間を超える長期間にわたり、三井物産で発生した従業員の処罰事案の概要を把握した。また前年には古河商事を経営破綻に導いた「大連事件」も分析済みであり、各商社で発生した内部不祥事のケース・スタディは厚みを増すことができた。
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Strategy for Future Research Activity |
今までに蓄積したデータに、本年度に調査した史料を併せることで三井物産に関しては内部不祥事の全体像を把握した。次には各ケースの、さらに具体的な分析が必要になる。不祥事は東京の本店では余り発生せず、もっぱら各支店が舞台であり、例えば三井物産の名古屋支店会計担当者が大量の偽造手形を乱発した「名古屋事件」が、その代表例としてあげられよう。今後は、そうした各地域の地方新聞などの採集が課題になるものの、コロナ・ウィルスの流行で出張は困難であることが予想され、その対応策としては過去に採集した史料の再確認や読み直しを進めることを選択肢に含めたい。 また2020年度は海外学会の発表準備を進める予定であったが、学会自体の開催が危ぶまれるほか、海外渡航が許可される時期の見通しも立たず、これもしばらく慎重に検討する予定である。
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Causes of Carryover |
当初はデータの入力に大学院生を雇用する予定であったが、能力的に適切な人材が得られず、また作業で優先して史料調査すべき必要が出来たので予算の使途費目を適宜調整した。
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Research Products
(2 results)