2021 Fiscal Year Research-status Report
乳幼児期の学びの質を維持・向上させるカリキュラムマネジメントの開発に関する研究
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19K02612
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Research Institution | University of Yamanashi |
Principal Investigator |
大野 歩 山梨大学, 大学院総合研究部, 准教授 (60610912)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
七木田 敦 広島大学, 人間社会科学研究科(教), 教授 (60252821)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 幼児期の学び / 学びのプロセス / 保育評価 / リゾーム型の学び / 幼児期のカリキュラム・マネジメント |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、スウェーデンの保育実践で活用されている「ペダゴジカル・ドキュメンテーション(教育学的ドキュメンテーション)」をもとに、日本における「乳幼児期の学び」を支える新たなカリキュラム・マネジメントの手法を開発することを目指している。 2021年度は、前年度に研究協力園における保育観察から導き出した幼児期における学びの実態について、学会発表を行った。具体的には、保育学会第74回大会にて、研究代表者と研究協力園の教員の連名による口頭発表(発表題目「幼児はいかにしてまなざしをぬりかえるか~年長児クラスにおける学びのプロセスから~」)を行った。発表内では、見えにくいとされる幼児期の学びの実態について「遊びの変容」と「教師のかかわり」から分析し、幼児の学びのプロセスとそれを支える保育者の役割を解明した。 また、スウェーデンにおける保育・幼児教育の動向にかかわる文献調査を行う中で、予測不可能な経路をたどり、決して直線的・段階的ではない「リゾーム型」と呼ばれる新たな教育概念と協力園における保育観察で見出した幼児の学びの実態が非常に酷似していることを発見した。このため、新たな「リゾーム型」の学びを提唱すべく、口頭発表の内容を質的に再検討し、2022年度の学会誌投稿に向けて「リゾーム型」の学びの形態を実証する論文を執筆した。 さらに、2021年7月に文部科学省より発表された「幼保小架け橋プログラム」を念頭に、研究成果の一部を研究代表者の所属大学における附属幼稚園と附属小学校の幼小接続活動へ反映して、全国に先駆け「幼小接続カリキュラム」を策定するに至った。これらは、やまなし幼児教育センターを通じて県内の小学校へ配布され、研究成果の教育現場への還元にも寄与することができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本年度もCOVID-19の影響により、海外調査は見送りとなった。また、研究協力園での実証研究においても、一年の半分は研究協力園に立ち入る許可が下りない状況であり、思うような観察や実践の検証ができなかった。したがって、「やや遅れている」状況であると捉えている。 まず、スウェーデンの海外調査については、継続して海外渡航が難しい状況にあり、調査の実施は叶わなかった。そのため、インターネット等を通じた文献調査に切り替えて、スウェーデンの保育・幼児教育の最新動向を検討する方向で研究を進めた。この対応により、海外調査に行けない不利益を補完し、さらにはスウェーデンの幼児教育で提唱され始めた新たな学習概念を見出すことができたことは喜ばしい成果であると考える。 また、日本における協力園での実証研究においては、感染症対策により園の関係者以外は立ち入りが禁止となった期間が述べ6か月あった。このため、研究代表者が十分に園へ立ち入れない状況が続き、実際の保育観察データの取得は不十分であった。この事態を踏まえ、スウェーデンの文献調査で知り得た新たな学習概念を用い、これまでの研究期間に研究協力園で観察調査を行って得てきたデータを質的に再検討する方向に切り替えた。この対応により、研究協力園における保育観察ができない不利な状況も、一程度克服できていると考える。 新たな方向性として、本研究の成果を保育現場のみならず、小学校教育へ還元する道が開かれた。具体的には、研究代表者の所属大学における附属幼稚園と附属小学校において、スウェーデンの保幼小接続制度やドキュメンテーションの原理を反映した接続カリキュラムを策定できたことは、研究の発展として重要であったと考える。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は研究成果をまとめる年度ではあるものの、COVID-19の影響により、研究の進捗状況が遅れていることを鑑みて、次年度も継続して、スウェーデンの保育・幼児教育の動向にかかわる文献調査と、研究協力園における実証研究を行いたい。 スウェーデンにおける保育・幼児教育の文献調査からは、リゾーム型の学びにかかわる概念の検討を進める。並行して、スウェーデンで議論されている「カリキュラムという形で目指すべき目標をあらかじめ定めた方向性を持つ線形管理システムと、リゾームのような非線形の観念が両立しうるのか」という課題に応えるべく、協力園におけるリゾーム型の学びをみとる保育評価の検討に着手する。具体的には、保育カンファレンスを主軸に据えた教師の学びを促す保育評価の実践である。さらには、これを「幼児期におけるリゾーム型の学びとそれを支える保育実践」をパッケージ化し、県内の研修において試行していく予定である。試行においては、やまなし幼児教育センターの協力も仰ぎながら、保育後のカンファレンスにおいて活用できるような保育者研修パッケージとして、具体化していき。研究成果の保育・教育原画への還元と発信を目指す。これにより、本科研の研究目的である「乳幼児期の保育において恒常的な質の向上を目指さすカリキュラム・マネジメントの開発」が達成できるのではないかと考える。 同時に、上記研究の成果を保育学会における口頭発表や学会誌への論文投稿につなげることで、アカデミックな研究成果の発信を行う。さらには、これら研究成果を保幼小連携における接続期カリキュラムの開発と実証へつなげていくことで、研究成果を還元する場を拡大できると考えられる。
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Causes of Carryover |
コロナ禍下により、海外調査の未実施、オンライン開催における学会発表における出張の中止など、当初の研究計画と異なる状況が生じたため、使用額にも影響があった。次年度は、研究の遅れを取り戻すために、研究協力園での観察データを処理するPCとソフトを購入する。また、研究成果を反映した保育カンファレンスや保育者研修のパッケージ化に向けたソフトの開発と、それに伴う人件費に充当する予定である。
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Research Products
(1 results)