2019 Fiscal Year Research-status Report
遺伝に関わる実習の制約を解決する教材としての子のう菌類の研究
Project/Area Number |
19K03169
|
Research Institution | Shinshu University |
Principal Investigator |
伊藤 靖夫 信州大学, 学術研究院総合人間科学系, 准教授 (70283231)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
小山 茂喜 信州大学, 学術研究院総合人間科学系, 教授 (10452145)
|
Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
Keywords | 理科教育 / 実習・実験 / 遺伝リテラシー / 交配 / 子のう菌類 / アスペルギルス |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は,中学校から大学を通じて実施可能な「遺伝子によって決定される形質が,世代を通じて伝達される様子を実感できる実習プロトコル」を作成し,普及させることである。2019年度には,子のう菌類に属し,麹菌やアカパンカビの近縁種であるAspergillus nidulansを材料として,交配の実習を行うための検討を行った。本菌は真核菌類のモデル生物種の1つであり,交配の基本的なプロトコルは確立している。しかし,無菌操作,温度管理,試料の容量等に関して,数十名の受講生が初めて行う作業であることを前提にした修正が必要であった。 交配には,白および黄の無性胞子を形成する変異体を用いた。これらは連鎖していない遺伝子座における変異によるものであり,交配によって,野生型の緑の系統が得られる。それぞれに選択可能な栄養要求性のマーカーを付加しているが,菌糸を融合させた後,選択的条件で共培養したとき,一方の系統が優勢に生育する問題が生じた。交配自体には問題はなく,遺伝の法則に則った分離が確認されたが,不要な混乱や誤解のもととなる。そのため,異なるマーカーを付加するとともに,菌糸の融合法等について検討し,解決した。しかし,構築した系統間では,生殖器官である閉子のう殻の形成に時間がかかり,2週間以内に次世代の形質の検定まで行うとした目標には至らなかった。 このように未解決の問題が残ったものの,2020年度に本学において交配の実習を行う目処は立った。さらに,計画を前倒し,中学で実習を行う準備を進めることになった。 また,大学での教養教育としての遺伝学実習という観点から,全国のシラバスの網羅的な検索を行った。社会科学系,あるいは,生物学を専門としない自然科学系の学生を対象として,交配実験を通じて遺伝リテラシーの向上を図る科目という点で,本計画の独自性を確認できた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2019年度に最も苦心した問題は,管理機関から得ていた系統間の交配で,想定していなかった挙動が生じたことである。その解決に手間取り,基本となる交配系統を確立できなかった。供試した種々の系統では,栄養要求性と無性胞子の色素合成に関して遺伝子型が明記されているが,有性生殖に関して記述されていない変異がある可能性も考えられた。そのため,培養条件等における変動要因に関して,予定していた全ての検討を行うことはできなかった。その点はマイナスの評価である。 しかし,2020年度に本学で開講する実習には問題のない状態に至っており,目標には達している。 また,中学の先生方との議論を通じて,本菌を材料とする交配実習の可能性を理解して頂くことができた。無性胞子の色によるコロニーの鮮やかな色は生徒たちにとってもインパクトがあり,予定を前倒しして,2020年度に中学校で実習を行う準備を進めることになった。この点は大きなプラス評価である。 大学における実態調査は想定内の結果であり,これら3つの点を総合的に勘案すると,2019年度の進捗状況はおおむね順調であった。
|
Strategy for Future Research Activity |
基本となる交配系統の確立が最優先事項である。中学校での実践にあたっては,生徒の関心を維持することを重視し,数日間隔の作業で2週間以内,と言う目標を設定している。そのために,系統の検討をさらに行う。2019年度に構築した系統間の交配では,閉子のう殻の形成に必要な期間が延びた。体系的な検討の報告はないものの,交配にかかる時間にバラツキが大きいことは知られた事実でもある。今回得られた系統は,この点について遺伝的要因の関与を検証するための良い材料なので,詳細に検討し,閉子のう殻の成熟速度に関与する遺伝子の同定を試みる。 2020年度には,大学生および中学生を対象とした実践において,交配による対立遺伝子の分離と形質の観察を,トラブルなく確実に実施することが必須である。そのために,人為的なミスも含む様々な状況を想定し,材料を準備することに努める。
|
Causes of Carryover |
当初計画の見込みよりも安価に研究を進めることができたため、次年度使用額が生じた。 次年度使用額は2020年度請求額と合わせて,消耗品費として使用する予定である。
|