2020 Fiscal Year Research-status Report
心理学研究における中級程度のベイズ統計学の教授法に関する研究
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19K03269
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
豊田 秀樹 早稲田大学, 文学学術院, 教授 (60217578)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 項目反応理論 / IRT / 特異項目機能 / DIF / 統計的仮説検定 / 帰無仮説 / ベイズモデリング / 下位集団 |
Outline of Annual Research Achievements |
テストデータを対象として,受験者の潜在的な特性と項目特性を分離して分析するためのテスト理論に項目反応理論 (IRT) がある。通常,IRT では受験者が所属する下位集団に関わらず,同じ特性に関する値を有していれば,同一項目に正答する確率も同じである仮定される。 しかしこの数理的仮定は必ずしも成立しない。もし,性別や人種といった属性別で,同一項目に対する正答確率が変化する場合は,当該項目は特異項目機能(DIF)を有するといわれる。測定の公平性の観点からDIFは望ましくないため,DIF の分析は大きな関心を寄せられてきた。 IRT に基づいたDIFの検討において,広く用いられてきたDIF検出法は統計的仮説検定に基づいている。従来の方法では、全くDIFがないという帰無仮説を棄却するロジックを採用しているので、受験者数が増加するのに従って、検定力が増加し有意になりやすくなる。このため実質的には、DFIがないのにDIFが存在してしまうと判定される項目の数が増加するという欠点があった。 そこで本研究では,ラッシュモデルにおける均一DIFを対象として,ベイズモデリングに基づいたDIF検討方法を提案した。提案手法を用いることで,下位集団ごとに項目母数を別々に推定し,更に等化係数を推定するという手順を一括して扱うことができるようになった。また,DIF の大きさとそれに対する確信度を考慮可能な指標も提示できるようになった。帰無仮説を棄却することによって、学術的に有用であると短絡的に判断をしている研究分野は多い。これは研究の再現性の危機を招く由々しき事態である。今後は、この研究で培ったアイデアを利用して、改善方法を提案し続けたい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
何故、再現性問題が起きるのか、有意でも無意味な論文ばかりが公刊されるのかという大問題を考えたとき、本研究の主要な答えの1つは「有意性検定は学術的に有用であるための必要条件を確認する文化を定着させてしまった」ことにあると考えている。たとえば「たとえば新治療法の平均的な入院期間は、従来法と全く同じである」という帰無仮説の棄却した論文は役に立つ治療法のための必要条件しか示していないということである。 世の中の役に立つ必要条件を満たせば論文が公刊できるという文化は、研究者の生き残りをかけた戦いの中で、実際は役に立たない論文の洪水を生んだ。神の見えざる手の働きで、悪貨が良貨を駆逐してしまうからである。 その文化を変えるためには、まず学術的に有用である十分条件を先に考え、(たとえば新治療法の平均的な入院期間が2日間短くなる)その命題が正しい確率を統計学的に確認する文化に変える必要がある。ところが、学術的に有用である十分条件は、人によって違うし論文の著者すら決められないケースが多い。「平均的な入院期間が半日間短くなれば有用だ!」「平均的な入院期間が1日間短くなれば有用だ!」「平均的な入院期間が1週間短くなれば有用だ!」など、様々な意見があり、学術的に有用である十分条件は1点には定まらない。 研究者の中心的なアイデアはphc曲線である。学術的な有用さを横軸にとり、その命題が正しい確率を縦軸にとって曲線を描けば、そのデータの価値が一目瞭然である。その教材をいよいよ本年具体化する。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、教材を2つに分けて作成する。仮にそれらを「上巻」「下巻」と呼ぶ。上巻は 「第1 章 データ分布の要約」「第2 章 事後分布とベイズの定理」「第3 章 1群の正規分布の分析」「第4 章 生成量と研究仮説が正しい確率」「第5 章 2群の差の分析1」「第6 章 差を解釈するための指標」「第7 章 相関と2 変量正規分布」「第8 章 2群の差の分析2」「第9 章 1要因実験の分析」「第10章 2要因実験の分析」「第11章 2項分布による分析」「第12章 多項分布による分析」となる予定である。 下巻は「第1 章 単回帰分析」「第2 章 重回帰分析」「第3 章 偏回帰係数の解釈」「第4 章 ロジスティック回帰」「第5 章 ポアソンモデル」「第6 章 数種の分布による独立した1要因の推測」「第7 章 さらに進んだ実験計画」「第8 章 共分散分析」「第9 章 階層線形モデル」「第10章 間接質問法」「第11章 項目反応理論」「第12章 メタ分析」「第13章 傾向スコア」となる予定である。 来年度中の完成は難しいかもしれないが、できるだけ多くの部分を完成させたい。
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Research Products
(2 results)