2022 Fiscal Year Research-status Report
心理学研究における中級程度のベイズ統計学の教授法に関する研究
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19K03269
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
豊田 秀樹 早稲田大学, 文学学術院, 教授 (60217578)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 一対比較法 / 項目反応理論 / 項目反応カテゴリ特性曲線 / 反応歪曲 / 社会的望ましさ / Zipf distribution |
Outline of Annual Research Achievements |
本年は、主として2つの研究を完成させた。1つは「項目反応カテゴリ特性曲線による一対比較型テストモデルの提案」であり、もう一つは「非復元抽出形式での授業評価における学生が重要視する知見の寡占度・飽和度の計算」である。 前者では、項目反応理論を用いた一対比較型テストのモデルを提案し、入社試験時のデータを用いて検証を行った。最初にモデルを定める母数である識別力と閾値、社会的望ましさの推定を行った。次に、推定時とは別のデータを用いて、推定値の交差検証を行い、十分に安定した推定値が得られていることが確認できた。社会的望ましさについては、設問内容からも妥当性があることが示された。得られた定数を固定母数として扱い、尺度値の推定を行い、得られた推定値と加減で求められるテスト得点との比較をした結果、両者に高い相関があることが確認できた。 後者では、ジップ分布を用いた分析を行った。講義の改善を考える際には, 選択式だけでなく自由記述式の授業評価が参考になる。その場合に重要となる観点の1つは, 収取した意見の飽和度である。飽和度とは,集めた意見が意見全体の母集団に占める割合のことである。意見の非復元抽出を想定した場合の歪みのない真の度数分布, 及び意見の飽和度をベイズ推定によって推定する方法を提案した。 またジップ分布を用いることによって,全体の意見に占める, 上位の出現頻度の意見群の得られ方の集中度合を示す指標, 寡占度の推定方法も提案した。さらに, 様々なデータの収集人数からの授業評価アンケートを用いた実例を 示し,推定精度に関する議論を行った。本研究の提案手法によって, 授業評価の内容を吟味するだけでなく、 その出現頻度の分布の観点から授業評価の結果の考察をする視点を提供できた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、ついに「心理学研究における中級程度のベイズ統計学の教授法に関する研究」に関する2つの中心的な研究を仕上げた。それは「尤度によるデータ生成過程の表現」と「生成量による実感に即したデータ分析」であり、双方とも朝倉書店より研究成果を公刊することができた。 前者では、「統計データ分析は、学問発展の十分条件を最初から目指す」ことを中心に論じた。有意性検定における帰無仮説は学問発展のための必要条件を確認するために使用されてきた。有意性検定の大きな罪は「学問発展のための必要条件を確認すれば論文は査読を通る」という誤った文化を定着させたことである。学問を発展させることは、言うまでもなく、とても大変です。このため、必要条件をクリアしているけれど、学問発展に寄与しない論文をあの手この手で学術誌に掲載してしまった。これが再現性問題の本質である。学問発展に対する十分条件への確信を示す分析を、最初からすべきである。 後者では、ベイズ的教育が「ビッグデータの時代に即応する」ことを中心に述べた。終身雇用が無くなった現在、転職に強いポータブルスキルとして、データ分析力は今後益々重要視されるようになる。統計学の入門的講義は、ポータブルスキルとして有用なデータ分析力を獲得する貴重な機会である。万単位のデータの分析に、何の役にも立たない有意性検定を、そこで講義していて良いはずがない。データ数が大きくなると、データの生成過程を尤度できめ細かく表現する能力が益々重要になる。「データの生成過程を尤度で表現する」という教授学習パラダイムは、卒業後の広範な進路に即応するポータブルスキルを獲得するために極めて重要であることを述べた。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度は、「非復元抽出形式での授業評価における学生が重要視する知見の寡占度・飽和度の計算」に関して、推定方法の改良を行う予定である。 尤度関数を用いてジップ分布の母数を推定するには,知見の順位と観察された回数を知る必要がある。しかしながら,質的研究のデータのほとんどが知見が観察された回数を収集できるが,その順位が未知である。豊田他(2019)と豊田他(2022)の方法では,知見が観察された回数を基づいて,1 から n まで順位を付け,ジップ分布の母数を推定した。しかし真の順位ではないため,母数の推定値にバイアスがあることが知られている (Pilgrim & Hills, 2021)。この問題に対して,Pilgrim & Hills (2021) は Approximate Bayesian computation(ABC) 法を用いて,ジップ分布の母数の推定方法を提案した。また,シミュレーションでABC法で推定された母数と真値の間のバイアスが最尤法より小さいことを示した。しかし,彼らの提案方法は一問一答形式のデータに適用できるが,一問複数回答形式のデータに適用できない。そのため,本研究は一問複数回答形式のデータにも適用できる ABC法を提案する予定である。 Pilgrim, C., & Hills, T. T. (2021). Bias in Zipf ’s law estimators. Scientific reports, 11 (1), 1-11.
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Research Products
(6 results)