2021 Fiscal Year Research-status Report
Asymptotic and global analysis of hypergeometric functions
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19K03575
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
岩崎 克則 北海道大学, 理学研究院, 教授 (00176538)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 超幾何群 / 超幾何格子 / K3 曲面 / K3 格子 / 正則自己同型 / エントロピー / ジーゲル円板 / ピカール数 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、超幾何関数の漸近解析と大域解析を課題としている。本年度は、後者に係るテーマを主に研究した。超幾何関数の解の大域挙動はモノドロミー群により測られる。超幾何方程式のモノドロミー群をモデルとする行列群が超幾何群である。この群のクラスは、さまざまな有限群および無限群を含んでいるので興味深い。 超幾何群の概念は Beukers-Heckmanによるが、我々は最近の研究で超幾何群の理論に更なる基盤整備を与えた。また整数上定義される超幾何群に対して、超幾何格子の概念を展開した。さらに超幾何格子を用いてK3格子を実現することにより、K3曲面上のエントロピー正の正則自己同型を構成する方法を与えた。超幾何群とK3曲面上の力学系という、一見すると無関係に見える二つのテーマを結びつけるところに本研究の特色と意義がある。 本年度の第一の成果としては、研究協力者 高田 佑太との共著論文 Hypergeometric groups and dynamics on K3 surfaces が国際学術誌 Math. Z. にアクセプトされ、出版されたことが挙げられる。この論文では、超幾何群・超幾何格子の理論の基盤整備を行ったあと、超幾何格子を用いて非射影的 K3 曲面自己同型を構成する手法を確立した。 次に、Siegel円板をもつ正則自己同型を許容するK3曲面のPicard数を決定した。逆に、種々のPicard数に対して、上記のようなK3曲面自己同型を、超幾何群の方法を用いて構成する方法を与えた。なお、Siegel円板の存在のためには、K3曲面上の不変曲線と Siegel 円板が共存するような状況を設定することが必要である。そこでLefschetz型の正則不動点公式を整備するとともに、不変曲線上の孤立不動点の局所指数を表現する Grothendieck 留数を計算する手段を与えた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度の進捗としては、先ず最初に、研究協力者 高田 佑太(北海道大学)との共著論文 Katsunori Iwasaki, Yuta Takada, "Hypergeometric groups and dynamics on K3 surfaces", Mathematische Zeitschrift 301 (2022), no.1, 835--891 がアクセプトおよび出版されたことが挙げられる。さらにこの論文で開発された、超幾何群の理論に基づく K3 格子自己同型の計算プログラム(数学ソフト Mathematica 版)を、高田と共同で研究代表者のホームページに公開した。 研究成果発表については、2021 年度日本数学会秋季総合分科会の函数論分科会で、高田と共同で「K3 曲面上の Siegel 円板と Picard 数」と題する発表を行った (2021 年 9 月 14 日)。また、熊本大学理学部でハイブリッド開催された研究集会「アクセサリーパラメーター研究会 2022」で「超幾何群をめぐって」と題する講演を行った(2022 年 3 月 10 日)。 また、超幾何群の方法を用いて、種々のPicard数をもつ非射影的K3曲面自己同型を構成する方法を与えた。この方法を用いて、Siegel円板をもつ正則自己同型を許容するK3曲面のPicard数の値域を決定できたことは意義ある進捗である。さらに、K3曲面の自己同型に対して、不変曲線上の孤立不動点の局所指数を計算する方法を得たことも重要である。 以上の状況に鑑みると、本研究活動は概ね順調に進展しているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の推進方策は、いくつかの方向性が考えられる。一つには、超幾何群・超幾何格子の理論をさらに進展させることである。これまでに考えた超幾何格子は非退化対称形式をもつものであった。設定を変えると非退化交代形式、すなわちシンプレクティック形式が出てくる。シンプレクティック超幾何格子とそれに付随する超幾何群の構造を研究するのが一つの課題である。 次に、超幾何群の方法で構成されるK3曲面自己同型を特徴づけることも興味深い問題である。また、非射影的、すなわち超越的 K3 曲面は、単連結なのでよく分かった空間の商空間としても表せず、また代数方程式系を用いても表せないので、直接的に観測することは困難である。一方Siegel円板をもつ正則自己同型を許容するK3曲面は、McMullenの結果より必然的に超越的となる。従って、K3 曲面上のSiegel円板を具体的に見ることは難しい。しかし、超幾何群から得られるK3曲面自己同型については、その超幾何群をモノドロミー群としてもつ超幾何関数を用いることにより、何らかの意味で具体化ができるのではないかと期待される。この問題を解くことは、非常に難しいことであると想像されるが、考察すべき方向性である。 コロナ禍がさらに収まり、旅行が活発化してくると、本研究費を研究発表や研究連絡のための旅費として有効に活用したい。
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Causes of Carryover |
当初の計画では、交付額の約8割を旅費に計上していた。これは、本研究においては、関連分野の研究集会への出席や研究連絡のための旅費が、経費の最重要部分を占めるからである。しかし、新型コロナウィルスによるパンデミックの発生以来、学術的会合や研究集会は軒並み中止になるか、あるいはオンライン開催されるようになった。 今年度もコロナの状況があまり良くならなかったので、感染防止のため、1度も研究旅行に出かけることができなかった。そのため、昨年度に続いて今年度も旅費使用額が発生しなかった。これが、次年度使用額が生じた理由である。 本研究においては、やはり対面での研究連絡、共同研究、研究集会への参加が重要である。コロナ禍も3年目に入り、状況も改善しつつあるので、今後安全性が確保されれば、研究旅費として大いに活用したい。
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