2021 Fiscal Year Research-status Report
Nonperturbative analysis based on quantum anomaly, resurgence theory and lattice field theory
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19K03817
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Research Institution | Kindai University |
Principal Investigator |
三角 樹弘 近畿大学, 理工学部, 准教授 (80715152)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | リサージェンス構造 / exact-WKB / 量子化条件 / 相転移現象 / ボレル平面 / 2次元シグマ模型 / 格子ゲージ理論 / グラフ理論 |
Outline of Annual Research Achievements |
当該年度の研究成果の一つは,主にexact-WKB法を用いた量子論のリサージェンス構造の理解とその応用研究である.exact-WKB法は,シュレディンガー方程式をWKB近似で解く際に現れる波動関数の漸近級数解に注目し,そのボレル和の無限遠点での振る舞いから,厳密な量子化条件・エネルギー準位・ユークリッド分配関数を得る非摂動的手法である.この手法を,場の量子論のリサージェンス構造・量子異常の研究で重要なS1上の量子力学(周期ポテンシャル系の量子力学)に適用し,厳密な量子化条件を得ただけでなく摂動的寄与と非摂動寄与のリサージェンス構造を完全に明確にした形で物理量を書き下すことに成功した.この研究の方向では他にも,超対称性を持つ量子力学にそれを破るパラメータを導入した場合の一般のリサージェンス構造をexact-WKB法を用いることで解明した. もう一つの研究の成果は,リサージェンス理論を用いることで場の量子論の相転移現象を理解する手法を編み出したことである.この研究では最初にS3上の超対称量子電磁気学を詳しく調べることで重要な知見を得た.その結果,理論のパラメータを動かした際に摂動的ボレル変換に現れる特異点が衝突・散乱を行う現象こそが相転移現象(ストークス現象と反ストークス現象の同時発生)を意味すること,そしてその衝突の際の特異点の数や散乱する際の角度から相転移の次数まで理解できることを証明した.この結果はリサージェンス理論が物理に応用された例の中でも最も大きな成果だと言える. 最後の大きな研究成果は,2次元ラージNシグマ模型のリサージェンス構造を明確にしたことである.これは本研究課題の重要な目標の一つである場の理論のリサージェンス構造の完全な解明に繋がる大きな成果である. 他に格子ゲージ理論をグラフ理論から調べることで新しい知見を得た. これらは全て本研究課題に関わる重要な成果である.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題は,格子理論,量子異常,リサージェンス理論を用いて場の量子論特に非可換ゲージ理論の非摂動的性質を解明することを最終目標としている.当該年度の研究成果は,まさしくこれら3つの道具立てに深く関わる研究成果であり,グラフ理論に基づく格子フェルミオンの研究,S1上の量子力学の量子化条件,そしてexact-WKB・3次元場の量子論の相転移・2次元シグマ模型の研究は,それぞれ格子理論,量子異常,リサージェンス理論に関係する成果である. また前年度までの2年間は,2次元ツイストCPN模型の閉じ込め相の連続性を示すための格子シミュレーション,2次元ツイストシュインガー模型のコンパクト化の際に連続性があることの発見,格子理論における量子異常マッチングの研究,などさまざまな成果を上げてきた. 本研究課題の最終目標と照らし合わせると,これまで量子力学,2次元,3次元場の理論のリサージェンス構造と閉じ込め相の連続性に関する研究成果を上げ,その他にも相転移現象やS1量子力学への応用に成功しており,十分な成果が上がっていると言えるが,一方で非可換ゲージ理論の閉じ込め相の連続性を示すための研究については未だ論文を発表できていない状態である.したがって,全体として見た時には十分な研究成果が上がってはいるものの,本研究課題の最終目標と照らし合わせた場合には現時点では不満が残ることから,(2)おおむね順調い進展している,を選択することにした.
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度に向けて,本研究課題の最終目標である「非可換ゲージ理論の閉じ込め相の連続性とリサージェンス理論の解明」を主に目指す.現在進めているZNツイスト4次元ラージN QCD行列模型(通称,ZNツイスト江口川合模型)のユークリッド厳密解の研究を進展させ,QCDにおける非摂動寄与の候補を明確にする.さらにそのユークリッド厳密解が実際のQCDでどのような寄与をするかを示し,摂動的ボレル和の不定虚部の相殺や赤外リノマロンとの関係を明らかにする.閉じ込め相の連続性については,ZN境界条件に加えてU(1)B対称性に関するフラックス(境界条件にも言い換えられる)を導入することで4次元QCDを量子力学系までリダクションできる可能性が最近議論されており,その理論の格子シミュレーションもしくは量子異常に基づく解析計算を行う予定である.これにより閉じ込め相の連続性の理解にかなり大きな進展を与えられると思われる. その他,格子理論の研究ではグラフ理論を用いて,一般のトポロジーを持つ格子上のフェルミオンについての研究を進める予定である. これまでの研究成果を国際会議で発表する機会がこの2年間減少しており,最後の年度で研究成果の発表をより積極的に行うことを目指す.
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Causes of Carryover |
コロナ禍のため海外で行われる国際会議に出席することができず,また本助成金を用いて行う予定だった国際会議やセミナーもzoomへの移行や中止にせざるを得なかった.一方,全てを物品費や国内出張費に充てることも研究費の使用方法として適切でないため,大きな繰越分が残ることとなった.今年度,対面での国内研究会の開催が決定しており,世話人として本助成金を若手研究者の旅費や滞在費に充てる予定である.また,国外での研究会についても許される限り出席する予定で,それにより,過去2年間に比べれば大幅に使用額が増えるものと予想される.これらの対策により,最終的には全ての助成金を使用できると考えている.
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