2019 Fiscal Year Research-status Report
海底地すべり等による局所的津波発生過程の解明と津波対策への影響分析に関する研究
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19K04970
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Research Institution | Tokoha University |
Principal Investigator |
阿部 郁男 常葉大学, 大学院・環境防災研究科, 教授 (30564059)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
池原 研 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 地質調査総合センター, 首席研究員 (40356423)
柳澤 英明 東北学院大学, 教養学部, 准教授 (70635995)
馬場 俊孝 徳島大学, 大学院社会産業理工学研究部(理工学域), 教授 (90359191)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 海底地すべり津波 / 駿河湾地震 / 二層流モデル / 山体崩壊 / 地形判読 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度の研究では、以下の3つの視点で研究を進めることができた。 1つ目は、駿河湾海底の表層堆積物資料の年代分析を行うことによって2009年の駿河湾地震による海底土砂の移動の有無を明らかにすることであり、過去の測定データと比較して、1997年の調査時には検出できなかった137Csを検出することができた。このことから、当該サンプルは2009年の駿河湾地震による堆積物であることが推定することができた。なお、石花海海盆の北部海盆底までを、この堆積物が覆っていることも確認することができた。 2つ目は、海底地すべりおよび土砂崩落による津波数値シミュレーションモデルの確立であり、2018年にインドネシアで発生したクラカタウ火山の山体崩壊による津波の再現に取り組んでいるところである。また、海底地すべり津波の再現計算のためには混濁流の考慮が必要と思われるので、津波シミュレーションにおける二層流計算モデルの修正にも着手し、下層の水位変化を上層部に展開する処理において数値フィルタを設定するように修正し、津波の励起部分の計算方式を改良することができた。この修正により、津波伝播部分にも非静水圧効果が含まれるような数値シミュレーションモデルを開発することができた。 3つ目は、詳細な海底地形データから海底地すべり発生箇所を抽出することである。南海トラフ地震による津波被害想定では、石花海海盆は最詳細30mメッシュ、駿河湾全域は最詳細90mメッシュの地形データであるが、JAMSTECから公開されている詳細な海底地形データを用いることにより、石花海海盆、駿河トラフ周辺でも10mメッシュの詳細な地形データを作成することができた。さらに、このデータから傾斜量やTRI指標を算出した立体図を作成し、それらのデータを用いた地形判読の結果として、駿河湾内には数多くの地すべり地形が存在することが確認できた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初計画では、駿河湾海底探査データの解析と2009年の駿河湾地震時の津波観測データを用いて、数値シミュレーションにより当該津波の再現検証を行い、海底地すべり津波の数値シミュレーション手法を提案することを2020年度に実施する計画であった。海底表層堆積物の解析では、石花海海盆北部に広がる堆積物を2009年の地震によるものと推定することができた。数値シミュレーションによる再現検証は未着手であるが、それに先行して、他の事例を用いて海底地すべり等の土砂移動を考慮した数値シミュレーション手法の精度検証が行えている。 また、JAMSTECにより公開されている詳細な海底地形データから当該海域の詳細な地形分析を行った。これによって海底地すべり発生箇所が多数存在することを確認することができたが、同時に公開されている海底地形データをそのまま利用する場合に、異常な地形変化を示すデータが存在することも確認できている。今後、海底地形データから地すべり地形の判読精度を向上させるためには、これらの地形データについて、計測精度を検証する必要があることが確認できたところである。2019年度には、抽出された海底地すべりデータに基づき津波数値シミュレーションを実施して、津波影響地域を明確化したいと考えていたが、地形データ作成のベースとなる計測データの精度確認が必要となったことから当該海域での数値シミュレーションは未着手である。その代わりに、現在、公開されている地形データから地すべり地形が明瞭に判別できる東京湾の小櫃川を対象として数値シミュレーションを試行することで、地形データの作成から数値シミュレーションに至る検討過程を確立することができている。 以上のようなことから、当初の目的に対しては、概ね順調に研究が進んでいると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
駿河湾海底の表層堆積物資料の分析から2009年の駿河湾地震による崩壊堆積物の可能性が明らかとなっているが、1997年の調査データとの間に通常時の堆積物の確認ができていないため、この点に着目して駿河湾内の堆積状況をさらに解析したいと考えている。また、数値シミュレーションについては、これまでに行っている他の事例での再現検証に加えて水槽実験も行い、土砂移動および混濁流考慮の2つの視点で津波発生過程に与える影響についての分析に着手し、2009年の駿河湾地震における海底地すべり津波の再現を行いたいと考えている。 海底地すべり津波による歴史津波への影響の分析については、これまでの検討で明らかになった駿河湾および相模湾の地すべり地形の複数個所を対象として、数値シミュレーションを実施し、海底地すべり発生場所および規模と、津波伝播状況の相関性を分析することによって、例えば元禄関東地震における熱海、伊東での痕跡高の再現性や明応東海地震を対象として駿河湾内での痕跡高の分布状況を明らかにすることを目標とする。 これらの研究を踏まえて、研究最終年度には、当初の計画通りに、駿河湾または相模湾に面する特定の場所を対象とした海底地すべりによる津波発生および伝播・遡上シミュレーションを実施して、現行の津波対策における課題を明らかにしたいと考えている。
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Causes of Carryover |
これまでの研究により、数値シミュレーションモデルの精度向上のためには、これまで取り組んできた既往事例の再現計算だけではなく、水槽を用いたモデル的な実験が追加で必要であるとの結論に至った。そのため、差額分については次年度以降の実験で使用する消耗品等の購入に充当する予定である。
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Research Products
(4 results)