2020 Fiscal Year Research-status Report
形状制御された酸化チタン微結晶上での結晶面選択的光不斉水素化反応の解明
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19K05681
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Research Institution | Hyogo University of Health Sciences |
Principal Investigator |
甲谷 繁 兵庫医療大学, 薬学部, 教授 (00242529)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
宮部 豪人 兵庫医療大学, 薬学部, 教授 (10289035)
川島 祥 兵庫医療大学, 薬学部, 助教 (60775724)
長谷川 靖哉 北海道大学, 工学研究院, 教授 (80324797)
北川 裕一 北海道大学, 化学反応創成研究拠点, 特任講師 (90740093)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 光触媒 / 不斉反応 / 酸化チタン / 有機合成 / エナンチオ選択性 / キラル認識剤 / アナターゼ / 結晶面 |
Outline of Annual Research Achievements |
酸化チタン(TiO2)は有機合成化学において有望な光触媒の1つであり、エナンチオ選択的反応を考える際には、反応過程における立体化学的な認識機構の解明が重要である。しかしながら、TiO2をはじめ半導体光触媒に関してこの観点からの研究はこれまでほとんど行われていない。本研究では、アセトナフトンなどのアキラルな芳香族ケトンから不斉炭素を有するキラルな2級アルコールへの光不斉水素化反応において、TiO2に共吸着するキラルな低分子有機化合物によるエナンチオ選択的な不斉誘起機構を詳細に検討している。これに関して、2020年度の研究成果を以下にまとめた。 1)アミノ基を有するキラルな2-Amino-1-phenylethanol(PhEA)を用いると、キラル認識能(約 20%ee)が20時間以上の長時間に渡って維持された。これは、PhEAがTiO2上で光分解を受けずに安定に存在できるためであることが、HPLCを用いた反応分析により明確となった。この結果は、キラルなα-ヒドロキシ酸であるマンデル酸(MA)がTiO2上で容易に光分解反応を受けることと対照的である。このことは、PhEAをモチーフとするキラルな低分子有機化合物は、酸化チタン上において長時間安定に光不斉反応の触媒として作用できる有望なキラル共吸着剤であることを示している。 2)アナターゼTiO2ナノ結晶の合成条件によって、MAによるエナンチオ選択的反応性が反転するという興味深い結果が得られた。研究代表者らが行っている合成方法では、チタン原料としてフッ化チタン (TiF4)、合成溶媒として表面修飾剤でもあるオレイルアミン (OLAM) または1-オクタデカノール (1-ODOL)を使用しているが、エナンチオ選択性の反転は表面修飾剤のOLAMと1-ODOLの違いによって引き起こされることが明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2020年度は、COVID-19感染拡大の緊急事態宣言発令により、研究時間の不足および研究を担う学生の登校制限による人員の不足もあって十分な研究成果をあげられずにいた。その中で、研究実績の概要に記した2つの新たな知見が得られたことは、次年度以降に研究を進展させるうえで重要な成果であったと思われる。
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Strategy for Future Research Activity |
2021年度は、引き続き(101)面のみで構成される八面体アナターゼTiO2結晶を用いて、エナンチオ選択的な反応条件の検討や芳香族ケトン(基質)とキラル認識剤の分子間相互作用を各種分光学的手法を用いて検討する。つまり、特定の(101)結晶面のみに着目し、吸着する土台となるTiO2表面の原子配列を固定した状況下で、芳香族ケトンと共吸着するキラル認識剤の間のキラル認識能を分光学的かつ計算科学的に評価する。まず、アナターゼ(101)結晶面上において、キラル認識剤(MAまたはPhEA)と芳香族ケトンがどのように分子間相互作用するかを、固体CDスペクトルの測定から誘起CDを観測することにより情報を得る。また、DFT計算により、共吸着したキラル認識剤と芳香族ケトンの立体構造を計算する。そして、誘起CD帯の符号の比較からキラル認識剤と芳香族ケトンの分子間相互作用における絶対配置を決定する。これら一連の作業をMAまたはPhEAといくつかの芳香族ケトン(基質)を組み合わせて置換基効果を調べることにより、アナターゼTiO2(101)面上での立体化学的なキラル認識機構を明らかにする。さらに、今後の研究計画では、TiO2結晶合成時におけるOLAMと1-ODOLの割合を変えながら濃度依存性をさらに検討する。2020年度に前倒し請求によって導入した「比表面積・細孔分布測定装置」により比表面積測定を含めたTiO2結晶のキャラクタリゼーションを詳細に行うと同時に、合成したアナターゼ結晶上での光不斉反応における反応速度、収率、エナンチオマー過剰率等の情報を収集して、エナンチオ選択性の反転の要因、ひいては、アナターゼTiO2表面における不斉誘起の機構を明らかにする。
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Causes of Carryover |
発生した次年度使用額は2万円程度と少額であり、次年度の使用計画に大きな影響を及ぼすものではない。
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