2019 Fiscal Year Research-status Report
冬期の寒冷は冷温帯林つる植物の通導機能と光合成生産を特に阻害するか?
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19K06127
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
市橋 隆自 九州大学, 農学研究院, 准教授 (60594984)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 木本性つる植物 / 通導構造 / 水分通導度 / 環孔材 / 散孔材 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題は,冷温帯林に生育する木本性つる植物と樹木を対象に,冬期の低温に対する水分通導機能・光合成生産の反応を明らかにすることを目的とし,特にその通導や水分生理に関する情報が少ないつる植物において,関連パラメータの幅広い取得と集積を目指している. 本年度は,フィールドにおける樹液流モニタリング体制の構築(つる植物6種,樹木8種,計32個体を対象に8月から計測を開始)と,つる植物の茎に対する水分通導度測定法の確立に注力した.樹液流モニタリングからは,つる植物が同所生育する樹木よりも一般に大きな樹液流速を示し,また,一日の速い時間にピークに達し,かつ夕方にかけてピークの持続時間が長い傾向が認められた.夏から冬にかけての樹液流量の季節変化の様子には,両者に違いは認められなかった.茎の通導構造・機能の調査から,つる植物,樹木ともにほぼ当年輪の導管のみで通導を行う環孔材的な種(樹木:ミズナラ,クリ.つる植物:フジ,ツルウメモドキ)と,数年分の導管を用いる散孔材的な種(樹木:コハウチワカエデ,ミズメ,アカシデ.つる植物:サルナシ,サンカクヅル)に分かれることを明らかにした.いずれのグループも,環孔材種の枝は冬期にほぼ完全に通導能力を失うが,散孔材種は一定の通導能力を維持していた.散孔材的つる植物のサルナシの茎の水分通導度(specific conductivity)が,環孔材種(フジ,ツルウメモドキ)の数倍から10倍程度大きいことがわかった.この大きな差は,両者の成長・生活史戦略の違いを反映している可能性がある.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本課題を遂行する上で基盤となり,同時に実施に困難が予測された樹液流モニタリング体制の構築(主に地形的,気象条件的な要因により)と,つる植物の茎に対する水分通導度測定手法の確立(導管が著しく太く長いため,枝のサンプリングと測定に技術的な工夫が必要となる)を順調にクリアすることができた. 本研究課題では,開葉前後,冬から初夏にかけての通導機能の変化に特に着目している.現在測定中のデータを加えることで,つる植物と樹木の通導機能の季節変化について予備的な解析を行い,今後の見通しを立てることがが可能と考えている.
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Strategy for Future Research Activity |
樹液流や茎の通導度に関しては,これまでに確立した技術と体制に基づきつつ,今後は測定をより厳密に,システマティックに季節ごとのデータを集めていく.また,今年からは個葉の光合成と根圧の測定も開始する予定である.特に根圧の測定については先行研究が少ないが,冷温帯植物の水利用を考える上で重要な要素であるので,今年は根圧測定システムの確立に注力する予定である.
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Causes of Carryover |
主な理由は,既存の気象観測システムの近傍に調査地を置くことができ,当面,新たな気象観測設備を作る必要がなかったことと,樹液流モニタリングにおいて,調査地の地形・気象条件と,対象種の分布状態などの影響により,当初の予定からシステムの変更があり,それに伴い使用額が減少したため.具体的には,高機能の大型データロガーで記録し,電源としてソーラー発電システムを用いる体制から,多数の小型かつ比較的簡易なデータロガーとディープサイクルバッテリーの組み合わせで小回りの利く体制をつくった. 次年度は樹液流モニタリングと気象観測に用いる機器のメンテナンスに加え,根圧の測定に必要なデータロガー・センサー類に十分な予算を用いる予定である.
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Research Products
(2 results)