2020 Fiscal Year Research-status Report
冬期の寒冷は冷温帯林つる植物の通導機能と光合成生産を特に阻害するか?
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19K06127
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
市橋 隆自 九州大学, 農学研究院, 准教授 (60594984)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 木本性つる植物 / 通導構造 / 根圧 / 環孔材 / 散孔材 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題は,冷温帯林に生育する木本性つる植物と樹木を対象に,冬期の低温に対する水分通導機能・光合成生産の反応を明らかにすることを目的としている.今年度は,つる植物6種,樹木8種を対象とした樹液流通年モニタリングを中心に,早春期(開葉期)の根圧発生(幹に開けた穴からの水滲出)の確認,対象種の一部に対して茎通水性(茎切片中の水の通りやすさ)の季節変化の評価を行った. 樹液流計測対象種の半数において開葉期の顕著な根圧発生が認められた(樹木:ミズメ,アカシデ,クマノミズキ,ヒメシャラ.つる植物:サルナシ,マツブサ,サンカクヅル).この開葉期の根圧は,冬期に低下した通水能力を回復させる機能があるとされる.これらの種では4月中~後期,葉が開ききる前から樹液流の日周変化が認められる一方,根圧がない種では葉の開葉状態に対して相対的に遅くなってから樹液流が発生する傾向が認められた.予備的な評価ではあるが,茎切片の通水性も同様の傾向を示し,顕著な根圧が認められた種では開葉期には既に茎通水性が高く,根圧がない種では夏期にかけて通水性の回復が遅れる傾向があった.これらのことから,つる植物においても樹木と同様,冬期の低温・通水能力の低下に対して少なくとも2通りの対処法があることが示唆された.その他,つる植物の樹液流速の日周パターンには,樹木よりも早い時間にピークに達し,ピークの持続時間も長いという,昨年度と同様の特徴が認められたことに加え,季節変化のパターンにおいて,樹木は秋季の落葉前に樹液流量の顕著な低下を示した一方,つる植物では夏季から落葉開始の時期にかけて樹液流量の変化が小さいことがわかり,つる植物と樹木の間には水利用の仕方に違いがあることが示唆された.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題の核となる樹液流速のモニタリング体制を確立し,成長シーズンを通した測定が実現した.それによってつる植物と樹木の間の水利用パターンの違いが見えてきており,同時に,恐らくつる植物と樹木間の違いよりも大きな水利用戦略の二分化(開葉期に根圧で通水機能を回復させるものとさせないもの)が,それぞれのグループ内にあるという興味深い示唆を得られているため.
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Strategy for Future Research Activity |
2020年度までにわかってきた結果をより明確にするため,つる植物と樹木を対象にした樹液流モニタリングを,新しい調査地においてこれまでと同様の規模で既に開始している.冷温帯のつる植物・樹木の水利用において根圧の有無が重要な意味を持つことがわかってきたため,今後はそれを一歩進めた根圧の定量化と連続モニタリング体制の構築を目指す.これまで一部の種を対象としていた茎切片の通水性試験を簡易化すると共に対象種の拡充を行い,樹液流や根圧の季節変動パターンとの関連付けを強化していきたい.
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Causes of Carryover |
2020年度はコロナウイルス流行の影響もあり,新しい試みや調査の拡大,また出張などは控えめにならざるを得ず,2019年度に構築したモニタリング体制から成果を得ることに注力した.このために大きな予算の支出はなかった.2021年度は新たに根圧モニタリング法の確立,茎切片の通水性測定のシステム化を目指しており,これに必要な物品費と,社会情勢が許せば技術を学ぶための出張費として使用する予定である.
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Research Products
(1 results)