2020 Fiscal Year Research-status Report
化学処理ー樹脂含浸圧密複合処理による木管楽器材料の開発
Project/Area Number |
19K06165
|
Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
小幡谷 英一 筑波大学, 生命環境系, 准教授 (10312810)
|
Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
Keywords | 木管楽器 / グラナディラ / 木質材料 / フェノール樹脂 / 寸法安定性 |
Outline of Annual Research Achievements |
木管楽器管体としての使用に耐えうる高い寸法安定性を持った木質材料を創製するため、国産のカバ材およびヒノキ材にフェノール樹脂を含浸した上で圧密し、得られたフェノール樹脂含浸圧密材(PIC材)の長期にわたる寸法安定性を測定した。 カバ材を用いたPIC材の寸法安定性がヒノキ材を用いたPIC材のそれより低いのは、厚く、剛性の高い細胞壁が完全に座屈せず、細胞壁の膨潤収縮に伴って細胞形状が変化する、いわゆる「浮き輪効果」が生じるためであることが明らかとなった。したがって、高密度のPIC材を得るためには、細胞壁が薄く、座屈しやすい針葉樹材が適している。一方、軽度に圧縮された中密度(900kg/m3前後)のカバPIC材は、同程度の密度の広葉樹材(ブナ、カエデ、ローズウッド等)に比べてはるかに寸法安定性が高いことから、中密度広葉樹材が頻用されるリコーダーやファゴットなどの管体材料として有望である。クラリネットメーカーからも、管体の密度が低いほど楽器が軽くなり、奏者の腕への負担が減ることから、高い寸法安定性が担保できるのであれば、中密度PIC材が全く新しいクラリネット管体材として有望であることが指摘された。 ヒノキ材を用いた高密度PIC材に関しては、カバ材とは逆に、樹脂含浸後の乾燥温度が高いほどバルキング効果や圧密後の寸法安定性が高いことが明らかとなった。単板の乾燥温度は、製造条件に関わる重要な因子であり、今後その原因を解明するとともに、最適な前処理方法を確立する必要がある。 分子量分布の異なるフェノール樹脂を混合してPIC材を作製したところ、低分子量と高分子量のフェノール樹脂を混合した場合に寸法安定性が最も高くなることが明らかとなった。これは、細胞壁中に導入された低分子量フェノールがバルキング効果を発現する一方で、細胞内腔に導入された高分子量フェノールが細胞壁間を強固に接着するためと推察された。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
実験室スケールでの材料試作と物性評価は順調に進展している。また、工場スケールでの実大材製作も概ね予定通りである。ただ、新型コロナウィルス感染拡大に伴い、フランスの協力企業の研究開発活動がほぼ完全に停止しているため、予定していたクラリネット試作ができなかった。
|
Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究により、従来のグラナディラ材に匹敵する高い寸法安定性を持った木質材料を製造するめどが立った。最終年度は、1)工場での実大PIC材の製造、2)実大PIC材の力学性能の評価、を行うとともに、楽器の種類に応じた着色(染色)を試みる予定である。 一方、新型コロナウィルス感染拡大に伴い、フランスの協力企業の研究活動がほぼ完全に停止し、予定していたクラリネットの試作が難しい状況である。そこで2021年度は、クラリネットの試作ができなかった場合に備え、日本国内のリコーダー製作所およびオーボエ製作所に楽器の試作を依頼する。
|