2020 Fiscal Year Research-status Report
Phytoplankton blooming dynamics in the coastal waters around Akkeshi,
Project/Area Number |
19K06181
|
Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
伊佐田 智規 北海道大学, 北方生物圏フィールド科学センター, 准教授 (80725359)
|
Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
Keywords | 植物プランクトン / ブルーム / 沿岸域 / 閉鎖性海域 / 環境収容力 / 厚岸湾 / 湿原 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、北海道東部の厚岸沿岸域における海洋環境と植物プランクトン群集組成の季節・経年変化を明らかにし、植物プランクトンブルームの発生メカニズムを解明することが目的である。これまでに、沿岸親潮で発生する春季珪藻ブルームに関する知見は蓄積されてきたが、 他の季節に関する知見は不明であった。厚岸湾に面した北海道大学北方生物圏フィールド科学センター厚岸臨海実験所の桟橋前では、2016年より週2回のクロロフィルa濃度の測定を継続して行っており、その結果から、春季よりも大規模な夏季・秋季ブルームが毎年発生していることが分かっている。この海域のカキやアサリなど二枚貝への餌資源、食物網過程に関して、夏季・秋季ブルームの寄与が春季より大きい可能性が考えられる。この海域のSDGsに関連した持続可能な養殖産業と適切な沿岸域管理に向けて、これらのブルーム発生メカニズムを解明することが必要不可欠である。 本研究では、桟橋前での観測と合わせて、船舶を使った月1~2回の厚岸湾の時系列観測を展開した。観測結果から、2~3月に春季ブルーム、8~9月に夏季ブルームが桟橋前だけでなく、湾全体でも毎年発生していることが分かった。また、8月を境に寒流の沿岸親潮から暖流の宗谷暖流変質水へと水塊が入れ替わり、それに伴い植物プランクトン群集組成も大きく異なった。珪藻類の中で寒流水塊が存在している場合は、Thalassiosira属やChaetoceros属が優占し、暖流水塊ではSkeletonema属、Thalassionema属、Leptocylindrus属、Pseudo-nitzschia属が優占し、全く異なる餌資源となっている事が明らかとなった。また、暖流水塊が流入した際にはシアノバクテリア(藍藻類)のSynechococcusの細胞数が急激に増加し、暖流水塊流入の生物トレーサーとなることも示唆された。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度も昨年度に引き続き、当実験所の桟橋前での週2回の採水と合わせて、船舶を使った厚岸湾での時系列観測を展開することができた。現在まで月1~2回の観測を実施・継続しており、高頻度な観測を実施できた。得られた海水試料の分析およびそのデータの解析も順調に進めることができている。さらに、湿原河川水からの栄養塩供給の影響を調べるために、6月に沿岸親潮水を、8月に宗谷暖水変質水を用いた栄養塩添加および河川水混合培養実験を実施した。現在までに得られた結果から、以下の事が明らかとなっている。(1)春季や夏季のブルームは、桟橋前のみの局所的な現象ではなく、湾全体でブルームが毎年発生していた。(2)およそ8月を境に、寒流の沿岸親潮から暖流の宗谷暖流変質水へと水塊が入れ替わり、それに伴い植物プランクトン群集組成も大きく入れ替わることから、厚岸湾のカキやアサリといった養殖二枚貝の餌資源は、ブルームであっても大きく異なることが明らかとなった。(3)栄養塩添加培養実験から植物プランクトンの増殖を制限している主要な栄養塩は主に窒素であることが分かった。また、6月と8月では栄養塩に反応する植物プランクトンの種や群集が異なっていたことから、水塊交換と湿原河川からの栄養塩供給が、異なる群集組成を持つブルーム形成へ寄与している可能性が示唆された。
|
Strategy for Future Research Activity |
今後も、厚岸湾における植物プランクトン群集の季節変化と経年変化を捉えるために、当実験所の桟橋前での週2回の採水と、船舶による月1回の時系列観測を展開していく予定である。また、船舶観測と、栄養塩添加および河川水混合培養実験にて採取した海水試料の分析と解析をさらに進める。特に、船舶観測と培養実験で得られたサンプルの顕微鏡観察を重点的に進めることで、ブルームの形成種やその発生要因を突き止め、「湿原、寒流、暖流のつながり」の解明に向けた解析を進める。それにより、この海域の養殖産業と適切な沿岸域管理への貢献を目指す。また、これらの得られた結果を取りまとめ、研究の成果物としての学会発表、論文執筆にあたる予定である。
|
Research Products
(5 results)