2020 Fiscal Year Research-status Report
イカナゴはなぜ砂に潜るのか:行動の制御機構と高水温耐性
Project/Area Number |
19K06195
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Research Institution | Kitasato University |
Principal Investigator |
吉永 龍起 北里大学, 海洋生命科学部, 准教授 (30406912)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | イカナゴ / 潜砂 / 概日リズム / 熱ストレス / 覚醒行動 / 水産資源 |
Outline of Annual Research Achievements |
イカナゴ属魚類は,沿岸生態系の食物連鎖を支え,水産資源としても重要な魚類である.一方,日本各地で資源が激減しており,禁漁措置がとられているにも関わらず回復の兆しが見られないことが深刻な問題となっている.青森県の陸奥湾周辺では,1970年代に1万トン以上あった漁獲量が近年は1トンにまで激減し, 2013年より禁漁の措置がとられるに至った.また同様に国内の主要なイカナゴ漁場である伊勢・三河湾でも2016年から禁漁となった.しかし,いずれの地域でも未だ低調な状況が続いている.イカナゴは生まれてから1年以内に成熟して繁殖するため,短期間の禁漁でも個体数の増大に有効な措置と期待できる.しかし現実には資源量が回復していないことから,再生産を阻むなんらかの要因が存在しているはずである.そこで,イカナゴ属の特徴的な行動である潜砂に着目し,本属魚類の再生産を阻む要因を探ることを目的とした.このために,まず複数の地点に分布するイカナゴ属を用いた飼育実験を行い,潜砂行動の制御機構を明らかにする.続いて,夏季の数カ月間にわたって砂に潜る夏眠について,潜砂により獲得される高水温耐性の分子機構を解明する. 本研究の2年目は,まず潜砂中の行動に注目して詳細に調べた.また,嗅覚による行動の発現様式も検討した.さらに,イカナゴ科魚類の中で祖先的な形質を有しているタイワンイカナゴ属について,インド洋の2種を新種記載をするとともに,相模湾で採集された標本の形態や遺伝的特性,および生殖腺や耳石の観察を行なった.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
(1)水槽底面に透明な樹脂を敷き詰めることで,潜砂中の行動を観察した.飼育開始時の水温は11 Cとして,明期は6:00-18:00とした.約3日ごとに1Cずつ19Cまで水温を上げ,最後に22Cまで急激に上昇させた後に19Cに戻した.馴致期間を含めて計43日間にわたって行動をヴィデオカメラで撮影し,不安様行動(頭部の露出),遊泳行動,および基質中での移動行動を観察した.その結果,不安様行動と遊泳行動はほとんど観察されなかったものの,基質中では頻繁に移動行動が観察された.基質中での自発的な行動を指標として発現パタンを解析し,以下の3つに分類した:(1)瞬間的な体勢の変化と上層への移動;(2)基質中での移動;(3)短時間の遊泳行動.暗期における行動の発現回数は,早朝にあたる3:00-5:00に集中していた.そこで,潜砂状態での行動が活発化する時間帯を「覚醒時刻」,この時間帯に生じる行動を「覚醒行動」と定義した. (2)インド洋で採集された2種のタイワンイカナゴ属について,形態的および遺伝的特徴を明らかにしてBleekeria albicaudaおよびB. nigrilineaとして新種記載した.また,タイワンイカナゴB. mitsukuriiは複合種となっていることも明らかにした. (3)相模湾で漁獲されたタイワンイカナゴ複合種について,形態形質および遺伝的な特性を明らかにした.標本の形態は,タイワンイカナゴ模式標本との間で大きな違いは認められなかった.また,COI遺伝子座の塩基配列より台湾・南シナ海群に属することが明らかとなった.メスの生殖腺には未発達および成熟した卵が混在しており,複数回にわたって産卵する繁殖生態を持つと考えられた.また,イカナゴ科は無鰾魚とされているが,解剖の際に発達した鰾が認められ,イカナゴ科の中では本属のみが鰾を持つ可能性を見出した.
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Strategy for Future Research Activity |
今年度も引き続き,飼育実験による行動観察と遺伝子解析を実施する予定である.新型コロナウイルス対策による大学キャンパスでの研究活動や出張の制限は不透明なものの,昨年度と同程度であれば計画通りに実施できる見通しである.飼育実験においては,昨年度に見出した「覚醒行動」についてより観察例数を増やす予定である.また,捕食者等の存在下における行動の発現様式を検討するとともに,嗅覚の関与について詳細を解析する予定である.遺伝子解析においては,高水温に応答して発現量が増大する分子(heat shck protein)について,潜砂個体と遊泳個体間で発現量を比較することで,潜砂による高水温ストレス耐性の生理的な機構の解明に取り組む計画である.同時に,既に同定済みの酸化ストレス応答に関わる分子群(SOD,カタラーゼ)についても発現動態を調べる.相模湾のタイワンイカナゴ複合種の生体が得られた場合は,飼育実験を行なって潜砂行動を観察し,イカナゴ属との違いを検討する.研究の最終年度であるため,これまでに見出した行動特性および遺伝子の発現動態を合わせて,イカナゴ属における潜砂行動の生態的および生理的な意義の理解をまとめる.
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Causes of Carryover |
コロナウイルスの影響により研究の開始時期が遅れたため,計画していた遺伝子解析を次年度に実施することとしたため,次年度使用額が生じた.
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Research Products
(1 results)