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2019 Fiscal Year Research-status Report

養殖環境のストレスはDNA脱メチル化を介して魚類細胞の老化を引き起こすか?

Research Project

Project/Area Number 19K06234
Research InstitutionTokyo University of Marine Science and Technology

Principal Investigator

二見 邦彦  東京海洋大学, 学術研究院, 助教 (00513459)

Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) 片桐 孝之  東京海洋大学, 学術研究院, 准教授 (50361811)
舞田 正志  東京海洋大学, 学術研究院, 教授 (60238839)
Project Period (FY) 2019-04-01 – 2022-03-31
KeywordsRas / OIS / SASP / 魚類不死化細胞株 / 細胞老化様増殖停止 / 初期老化 / 完全老化
Outline of Annual Research Achievements

ヒト正常二倍体細胞を長期間にわたって継代培養していくと,増殖能の低下が起こる。一方,魚類由来の培養細胞は,培養初期から一定の増殖を続け,老化の兆候が見られないまま不死化細胞株として樹立される。近年,申請者らは,魚類由来培養細胞株EPCにおいてゲノムDNAを強制的に脱メチル化させると,テロメア非依存性の細胞老化現象が誘導されることを突き止めた(Futami et al, Gene, 2019)。しかしながら,魚類由来培養細胞が通常,どのようにして試験管内で老化耐性を示しているのかは明らかとなっていない。本年度は,OIS(oncogene-induced senescence)の中心的な役割を担うとされる癌遺伝子Rasに着目し,魚類由来培養細胞の老化制御におけるRasの役割を調べた。
EPC細胞をDNA脱メチル化剤5-Aza-dCで処理したところ,3種のras(hras,kras,nras)遺伝子の発現が有意に上昇した。そこで,赤色蛍光タンパク質mCherry融合HRasおよびその活性化型変異体(HRasV12)を過剰発現させたEPC細胞においてコロニーフォーメションアッセイを行ったところ,癌抑制遺伝子p53依存性の細胞老化様増殖停止が見られた。これらの細胞は,細胞老化に特徴的な大型で平坦な形態かつSA-β-gal活性を示した。一方,細胞老化随伴分泌現象(senescence-associated secretory phenotype,SASP)は見られなかった。これらことから,魚類由来培養細胞株では,Rasは細胞老化の一部の表現型を示す初期老化を誘導するのみで,成熟した完全老化への移行には関与しない可能性が示唆された。Rasの限定的な老化誘導機構が,魚類由来培養細胞株の老化耐性の一翼を担っていると考えられる。

Current Status of Research Progress
Current Status of Research Progress

2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.

Reason

魚類不死化細胞株EPCをDNA脱メチル化剤5-Aza-dCで処理し,qRT-PCRを行ったところ,3種のras(hras,kras,nras)遺伝子の発現が有意に上昇した。特にhrasは最も顕著な発現上昇を示した。そこで,hrasの発現上昇が脱メチル化による直接的な影響かどうかを明らかにするためにCOBRA(combined bisulfite restriction analysis)を行ったところ,hras遺伝子の発現上昇はプロモーター領域の脱メチル化によるものではないことがわかった。5-Aza-dCにより活性化される転写因子の存在が示唆されるが、本研究ではそれを同定することはできなかった。
次に,赤色蛍光タンパク質mCherry融合ファットヘッドミノーHRasおよびsite-directed mutagenesisにより作製した活性化型変異体(HRasV12)をEPC細胞にトランスフェクションし,コロニーフォーメションアッセイを行ったところ,有意な細胞増殖停止が見られた。また,細胞老化に特徴的な大型で平坦な形態かつSA-β-gal活性が認められた。アポトーシスアッセイ,qRT-PCRおよびレポーターアッセイの結果,この細胞増殖停止はアポトーシスによるものではなく,p53依存性の細胞老化様増殖停止であることがわかった。一方,完全老化を示すSASPは見られず,SASP因子の発現を調節する転写因子NF-κBの活性化も見られなかった。これらのことから,魚類由来培養細胞株では,Rasは細胞老化の一部の表現型を示す初期老化を誘導するのみで,成熟した完全老化への移行には関与しない可能性が示唆された。このように,Rasの限定的な老化誘導機構が魚類由来培養細胞株の老化耐性の一翼を担っていることを明らかにすることができた。

Strategy for Future Research Activity

魚類由来培養細胞株では,Rasは細胞老化の一部の表現型を示す初期老化を誘導するのみで,成熟した完全老化への移行には関与しない可能性が示唆されたことから,令和2年度は引き続き,魚類由来培養細胞がどのようにして試験管内で老化耐性を示しているのかをさらに詳細に解析する。
哺乳類では,Rasはp53-p21経路とp16-Rb 経路の両方を活性化することで細胞老化を誘導する。特にp16INK4Aおよび同じ遺伝子座のARFは,細胞老化誘導の中心的な役割を担っている。哺乳類のp16INK4A/ARFは,脊椎動物の進化の後期に起こった局所的な遺伝子重複の産物であり,魚類のゲノムはp16INK4A/ARFを欠如している。このことは,魚類細胞においては,Ras単独の発現上昇のみでは完全老化には成熟しないことを意味する。そこで令和2年度は,p16INK4A/ARFをコードする哺乳類cdkn2a遺伝子をEPC細胞にトランスフェクションし,細胞老化マーカーであるSA-β-gal活性の測定,コロニーフォーメションアッセイ,およびqRT-PCRによるSASP因子の発現定量を行う。これにより,p16INK4A/ARFの欠如が魚類由来培養細胞株の老化機構と深くかかわっている可能性について検証する。
また,養殖場で起こりうるストレスや感染症を想定し,in vitroにおいてこれらがSASPを誘導するかについても明らかにする。酸化ストレスや養殖場で起こりうる低酸素ストレスを模して,EPC細胞に過酸化水素や塩化コバルトを添加した後,各種老化マーカーおよびSASPの有無を検証する。同様に,感染症を模したマイトジェン(LPS,ConA,PHA),poly(I:C),キチン・パパイン(それぞれ細菌,ウイルス,寄生虫感染のミミック)や,農薬などの有害化学物質の曝露による影響についても調べる。

Causes of Carryover

(未使用額が発生した状況)
令和元年度にドミナントネガティブ変異型Ras(N17-DN-Ras)を安定的に発現する細胞株を作製する予定であったが,ピューロマイシンでのN17-DN-Ras陽性細胞のセレクションが上手くいかなかったことと,活性化型変異体Ras(RasV12)を一過性に発現するプラスミドのみで十分な成果が得られたことから,当初の目的を一部変更した。そのため,未使用額が生じた。
(次年度における未使用額の使途内容)
N17-DN-Rasを安定的に発現する細胞株は今後も必要となるため,次年度以降は発現プラスミドを再構築し,ピューロマイシンの代わりにG-418でN17-DN-Ras陽性細胞のセレクションを行う。未使用額はその経費に充てることとしたい。

  • Research Products

    (1 results)

All 2020

All Presentation (1 results)

  • [Presentation] 魚類由来培養細胞株EPCの老化耐性機構におけるras遺伝子の役割2020

    • Author(s)
      二見邦彦・青山華子・福田一輝・伊藤颯希・舞田正志・ 片桐孝之
    • Organizer
      令和2年度日本水産学会春季大会

URL: 

Published: 2021-01-27  

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