2020 Fiscal Year Research-status Report
ガングリオシド欠損マウスのADHDモデルとしての確立と応用
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19K06468
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
吉原 亨 京都大学, 医学研究科, 特定講師 (00401935)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
浅野 雅秀 京都大学, 医学研究科, 教授 (50251450)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | マウス / 行動解析 / ガングリオシド / 運動制御 / 大脳皮質 |
Outline of Annual Research Achievements |
注意欠陥・多動性障害(ADHD)は注意力・集中力の散漫,多動性,衝動性を主症状とする精神疾患である.これまでに特にドーパミン神経仮説(DA仮説)に基づ き,DAレセプター,トランスポーター,合成酵素の欠損・変異を持つ様々なモデルマウスが開発されてきた.その多くは中枢神経系全体での遺伝子改変モデルで あること,また行動解析から観察されるADHD様の症状の多くが多動性に限られるなど,ヒト疾患モデルとしての妥当性を十分に保有していない問題点が挙げられ ている. 本申請ではADHDの責任領域と考えられる前頭前野を含む終脳特異的に糖脂質であるガングリオシドを欠損させたマウスを用いて研究を進める.このマウスでは, 注意機能の障害,顕著な過活動性など多くのADHD様の行動障害が観察されており,神経ネットワーク形成に障害を持つ病態モデルとして確立し,新たな病因理解,治療法の提唱を目指す. 研究手法としては1)行動解析,2)薬理学的解析,3)組織学的解析,4)電気生理学的解析を主に実施する予定である.2020年度は行動解析の再検と終脳特異的ガングリオシド欠損マウスではドーパミンD1レセプターとD2レセプターの過敏性が更新していることを複数の行動薬理学的解析から確認することができた.また,この欠損マウスでは体性感覚野,運動野などの大脳皮質の入出力系に何らかの機能障害があることが示唆されており,培養系の検討からは,大脳皮質ニューロンの未熟性を確認することができた.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
予備段階として確認した終脳特異的ガングリオシド欠損マウスの行動障害,すなわち過活動性,注意機能の障害は個体数を増した再検においても確実に観察され た.また.行動障害の特性からして,特に脳内ドーパミン神経系の機能障害が疑われることから,ドーパミンD1およびD2レセプターに作用する作動薬,拮抗薬を 用いた行動薬理学的解析も実施することができた.その結果,欠損マウスの過活動性は両薬物により顕著に低減することが明らかとなり,過活動性性をはじめと した行動障害の一端に,ドーパミン神経系の機能障害があることが示唆された.これまで黒質,線条体,大脳皮質,視床下核などで構成されるいわゆる直接路 (D1レセプターによる賦活化経路),間接路(D2レセプターによる抑制経路)のバランスにより運動機能制御がなされていることが定説であったが,この欠損マ ウスの解析からは両者が過活動性に関与しており,ガングリオシドの運動制御機構への関与が順調に解析できている.また,同様のスキームは注意機能,感覚過 敏などに関しても適用され得るものであり,進捗状況はおおむね順調なものである.これらの現象が真に大脳皮質機能の障害であるかを検討するため,現在共同研究として電気生理学的解析,fMRIによる解析を進めている,
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Strategy for Future Research Activity |
行動解析ならびに行動薬理学的解析から示唆されたドーパミン神経系機能の異常が,行動障害の原因である事を検証するために,以下の研究を行う予定である. 1)黒質ー線条体ー大脳皮質経路を中心とした運動機能制御機構に関して,電気生理学的検討,fMRIによる解析により神経回路の機能障害を検討する.この研究は申請者が研究ツー ルを持たないため,京都大学内の研究者の協力を仰ぐ.2)同回路の組織学的解析.運動制御に関わるドーパミン神経系の起始核である黒質やその神経終末であ る線条体,大脳皮質に関して免疫染色をはじめとした組織学的解析を行う.また,終脳ではなく脳全体でガングリオシドを欠損させたマウスでは,特に大脳皮質 領域における軸索ーミエリン相互作用に顕著な組織学的変性が見られた(Yoshihara et al. PlosGenetics, 2018).運動機能,注意機能がこのような神経構築の 障害に基づくものである可能性も高く,大脳皮質を中心とした神経変性についても組織学的解析を行う予定である.
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Causes of Carryover |
一部研究において,必要物品の選定に時間がかかったため.また共同研究(受託解析)費用が生じることが見込まれたため次年度使用額として繰り越した.
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