2019 Fiscal Year Research-status Report
高次ゲノム構造が織りなす複雑な遺伝子発現制御動態の解明
Project/Area Number |
19K06612
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
落合 博 広島大学, 統合生命科学研究科(理), 講師 (60640753)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | ゲノム構造 / 遺伝子発現 / 多能性幹細胞 |
Outline of Annual Research Achievements |
近年、塩基配列上遠距離に位置するゲノム領域間の相互作用が遺伝子発現制御に関与していることが明らかとなってきた。マウス胚性幹(ES)細胞において多能性維持に重要な転写因子をコードするNanog遺伝子は相互作用するゲノム領域が多数且つ広範囲(30 Mb以上)に散在する、極めて特異な性質を有している。研究代表者の研究結果から、Nanogはプロモーター活性状態によってそれらゲノム領域との相互作用が大きく変化することが示唆されている。しかし、Nanogと相互作用する全てのゲノム領域が転写調節に関与するのか否か、またその相互作用と転写活性化の直接的な関係は依然として不明である。本研究では、マウスES細胞におけるNanogの転写活性化と相互作用領域との関係性を明らかにするために、CRISPR-dCas9ライブラリを利用し、Nanogの転写調節に関わるゲノム領域を同定し、さらに、sequential-FISHおよび独自に確立した特定遺伝子の核内局在および転写活性の可視化技術の改良法によって、遺伝子領域間相互作用と遺伝子発現の相関および動態を解析し、高次ゲノム構造動態と遺伝子発現制御の関係理解を目指す 本年度は、マウスES細胞におけるNanogの転写活性化と相互作用領域との関係性を明らかにするために、特定遺伝子の細胞核内局在と転写活性を高い精度で検出する技術の確立に取り掛かった。その結果、以前確立した同様の手法(ROLEX system, Ochiai et al., NAR, 2015)に比べて、高いシグナルノイズ比で遺伝子領域および転写起点を可視化できるようになった。今後この新しいシステムが遺伝子発現活性にどのような影響を与えているのかを調べる予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、マウスES細胞におけるNanogの転写活性化と相互作用領域との関係性を明らかにするために、特定遺伝子の細胞核内局在と転写活性を高い精度で検出する技術の確立に取り掛かった。従来型の方法では、標的遺伝子領域へ事前にMS2リピート配列を挿入しておく。その後、MS2 RNAへ特異的に結合するMCPと赤色蛍光タンパク質(RFP)の融合体を発現させることで、転写領域にMCP-RFPが集まることで、転写を蛍光輝点として可視化できる。一方で、dCas9-GFPシステムを利用して、MS2領域にdCas9-GFPを結合させることでゲノム領域をGFPで標識し、転写の有無に関わらず標的遺伝子の核内局在を特定できた。しかし、MS2リピートへdCas9-GFPシステムをターゲットさせた場合、輝点のシグナルノイズ比が悪く、明確に輝点を追跡することが困難だった。そこで、標的遺伝子領域へMS2リピートと一緒にTetOリピート配列を挿入、MCP-RFPで転写を、TetR-GFPで遺伝子領域をラベルした。その結果、dCas9-GFPシステムと比較して明確な輝点が観察され、精度良く標的遺伝子領域を追跡することが可能となった。このように、概ね順調に研究が進んでいる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後、新しい遺伝子可視化システムを確立する。また、CRISPRライブラリを利用して、Nanogプロモーター領域と相互作用する領域のうち、転写調節に関わるものを同定する。ここで同定するNanog(およびOct4)転写調節に関与する領域と当該遺伝子プロモーター領域の直接的な相互作用の関係を調べるために、sequential -RNA-DNA-FISHを実施する。研究代表者の研究結果では、Nanogの転写活性状態は平均持続時間が約2分間と、比較的短いことがわかっている(Ochi ai et al ., Sci Rep, 2014)。また、エンハンサーとプロモーターの相互作用→転写開始複合体の形成→転写開始までには複雑な反応が絡むことが知られている。そのため、上記解析によってNanogの転写活性化と転写調節領域の相互作用の関係が明らかにできる可能性があるが、もし転写調節領域とNanogプロモーター領域との相互作用と転写活性化に時間差がある場合、時間的な位相のずれによって明確な相関が見られない可能性が懸念される。このため、生きた細胞で転写活性と各ゲノム領域の核内局在をリアルタイムに計測することで、初めて相関関係が明らかにできる可能性がある。そのために、上記で確立した新規遺伝子可視化技術を利用し、高次ゲノム構造動態と複雑な転写発現制御の関係理解を目指す。
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