2022 Fiscal Year Research-status Report
昆虫交尾器で探る、左右非対称な構造と「利き手」の進化の関係
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19K06746
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
上村 佳孝 慶應義塾大学, 商学部(日吉), 准教授 (50366952)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | ハサミムシ類 / 交尾器進化 / メカニクス / 左右性 / 種間変異 |
Outline of Annual Research Achievements |
本州・四国・九州の暖温帯域に広く分布するコバネハサミムシは、現在では最も身近な種の1つであるが、その学名は長く混乱していた。他のより分布が広い同属別種、すなわちEuborellia plebeja、E. stali、E. annulataなどと混同されてきたが、DNA分析を含む詳細な検討により、これらとは別種であることが明らかとなった。本種の学名としては Euborellia pallipes (Shiraki) が適切だと判断された(Kamimura et al. 2023a)。本種はその左右一対の交尾器の使用について最も詳しく研究されている種の一つであり、羽化時点での遺伝的基盤についても調査がなされている稀有な種である。東アジア固有種として遺伝的多様性が全般に低いことも明らかになりつつあり、交尾器の左右性に関して広域分布種との比較が新たなテーマとなる。 エジプトから新たに発見されたナミコモチハサミムシMarava arachidisの生態について、共同研究の成果が発表された(Aboelhadid et al. 2022)。本種のオスはその左右非相称な交尾器のトゲによって、メスに傷を負わせることを申請者は明らかにしており(Kamimura et al. [2016] Biological Journal of the Linnean Society 118: 443-456)、世界各地の個体群についてその左右性を確認することは興味深いが、多数のサンプルを検討する機会を得るには至っていない。サンプルの持ち出しが難しい国の個体群については、現地研究者による現場でのサンプル検討が、研究推進のカギとなる。重要な分類群を多く擁するにもかかわらず、ハサミムシ類の研究が停滞しているインド亜大陸での調査を喚起すべく、ミニレビューを寄稿した(Kamimura et al. 2023b)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
Covid-19パンデミックが終息に向かいつつあることから、2020年以降実現できずにいた海外でのサンプリング調査、特にマレーシア(ボルネオ島)でのコウモリヤドリハサミムシ類の調査については実現の可能性が見えてきた。しかしながら、煩雑な調査許可手続きが必要な地域で、研究グループのテーマの1つとしての調査実施が現実的であり、2022年度中の渡航は叶わなかった。2023年度は本課題の最終年度となるので、早期の実現を目指したい。 2022年度に代替的に開始されたDNAバーコーディングを用いた調査は、思わぬ大きな成果を生み、長年の懸念であったコバネハサミムシに関して分類学上の混乱を解決することができた。本種は交尾器の左右性に関して最もよく研究している種だが、長く混同されてきた汎世界分布種とは別種と判明したことで、新たな比較研究のテーマが設定可能となった。 DNAバーコーディングによる日本産他種の検討も進んでおり、成果の出版準備を進めている。国内での遺伝的多様性が高い種類と低い種類の比較など、新しい派生テーマも生まれつつあり、全体としては概ね順調に進展しているものと捉えている。
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Strategy for Future Research Activity |
海外調査の代替として2022年に開始した国内個体群の調査は、思わぬ派生的な研究テーマの発見につながった。ハマベハサミムシAnisolabis maritimaについては、日本海側-太平洋岸の間での遺伝的分化が示唆されつつあり、これまで太平洋岸側の単一個体群についてしか報告されていない左右性についても、複数個体群にまたがる調査を計画している。 一方、クロハサミムシやクロツヤハサミムシなど、いまだ実験個体群の確立に至っていない種もあり、それらについては引き続き採集を試みる。 最終年度となるため、懸案の海外調査が早期に実現できるよう努めつつ、成果の出版も同時進行で進めていく予定である。
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Causes of Carryover |
申請時に予定していた海外調査は、上述の通り、2022年度中には実現できなかった。また、最終年度となる2023年度は主に結果の出版に充てるため、ごく少額の予算しか当初計上していなかった。結果として2023年に繰り延べとなった海外調査の旅費を確保すべく、2022年度を予算消化率は低く抑えることとなった。海外渡航が可能となる時期はいまだ不透明であるため、状況を常に確認しながら、予算を消化していく予定である。具体的には、昨年に開始されたコバネハサミムシ等の国内各地の個体群の採取およびそのDNA分析も同時並行で進めているため、国内出張旅費およびDNA分析用の試薬類等、および(当初計画通りの)論文出版に関わる費用として、随時計画を更新しながら消化していく予定である。
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