2020 Fiscal Year Research-status Report
Investigation for regulatory mechanisms of cnidarian muscle contraction
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19K06755
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
田中 啓之 北海道大学, 水産科学研究院, 助教 (90241372)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | ミズクラゲ / 筋肉 / 筋収縮調節 / カルシウムイオン / 再生 |
Outline of Annual Research Achievements |
2020年度は、ミズクラゲの組織からタンパク質や核酸を抽出する手法の改良を行った。傘を中膠(メソグリア)部分で切断して上面と下面に分割し、それぞれにディスパーゼII(合同酒精)を作用させると、メソグリアが分解され、上傘上皮、下傘上皮(筋上皮)と放射管、メソグリア細胞(アメーバ細胞)の3つに分画することができた。また、それぞれに含まれる細胞は生存し、刺胞も射出されていなかった。さらに、得られた上皮からは従来よりも効率よくタンパク質およびRNAを抽出できることが確認された。上傘および下傘上皮から抽出したタンパク質を二次元電気泳動で比較したところ、上傘では非筋型ミオシン重鎖が発現し、Ser/Thr-キナーゼが存在しないなど、下傘との相違が見いだされた。また、RT-PCRによって、上傘と下傘で発現するトロポミオシン-1のアイソフォームが異なることも示唆された。さらに、昨年度発見した新規Ca結合タンパク質AaCBPについては、下傘にアクトミオシン系とともに存在し、細胞内Caイオン依存的に他の何らかの筋肉タンパク質と相互作用していることが示唆された。従って、このタンパク質は筋収縮調節に関与している可能性が考えられた。 一方、2020年度は、飼育下のミズクラゲの傘の縁や胃腔、放射管に潰瘍ができ、成長が停滞する事例が多く見られた。この潰瘍組織を切り取ってディスパーゼII処理によって分散し放置すると、翌日には細胞塊を生じ、5日から1ヶ月で幼生(ポリプ)が発生した。この現象は、2015年にHeらが報告した「若返り現象」に相当すると考えられた。潰瘍組織には小型の上皮細胞が密に存在し、細胞分裂が盛んであることが示唆された。今後この潰瘍組織の細胞に遺伝子ノックイン/ノックアウトを施して遺伝子組換えミズクラゲを作出し、機能が不明な筋肉タンパク質の役割の解明につなげることを計画している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2020年度はコロナウイルス感染症予防対策のため、施設での活動や実験材料の入手に制約があり、研究の停滞につながった。しかし、クラゲの生細胞を用いた実験手法を確立し、体細胞から個体が再生する現象も確認できた。今後、RNA干渉やゲノム編集などの手法を取り入れることで、筋収縮調節機構の解明を加速できるほか、メソグリアや刺胞内に有用タンパク質を生産するなどの産業応用の実現につながる基礎的知見を集積できると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
(1)二次元電気泳動や酵母Two-Hybrid systemを利用した筋肉タンパク質間相互作用の網羅的解析により、AaCBPにCaイオンが結合してからアクチン-ミオシン相互作用の促進に至るまでの情報伝達経路の解明を図る。 (2)試験管内で再構成アクトミオシンのMg-ATPase活性を測定すると、それがCaイオン依存的に調節される場合があるが、されないことが多い。これは、アクトミオシンを構成するタンパク質が不安定であることに起因すると考えられるため、精製法の改良を図り、調節因子の同定につなげる。 (3)ミズクラゲ傘潰瘍組織の細胞に、ゲノム編集を施す技術を確立し、Ser/Thr-キナーゼ、AaCBP、パラミオシン様タンパク質などの機能不明なタンパク質の遺伝子をノックアウトした個体を作出して、表現型の変化からこれらのタンパク質の役割を推定する。また、これらのタンパク質と蛍光タンパク質を共発現する個体を作出し、これらのタンパク質の発現部位を明らかにする。
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Causes of Carryover |
2021年度の交付予定額が少額のため、2020年度の支出を抑えて次年度使用額を発生させた。2020年度は、物品費としてその大半を使用する予定である。
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Research Products
(1 results)