2019 Fiscal Year Research-status Report
ケタミンの抗うつ作用におけるセロトニン5-HT2A受容体の役割に関する研究
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19K07332
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Research Institution | Meijo University |
Principal Investigator |
衣斐 大祐 名城大学, 薬学部, 准教授 (40757514)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | セロトニン5-HT2A受容体 / うつ病 / 抗うつ薬 |
Outline of Annual Research Achievements |
うつ病患者の約30%が、抗うつ薬が効きにくい治療抵抗性(難治性)うつ病患者である。NMDA受容体拮抗薬のケタミンは、難治性うつ病にも治療効果を示すため米国ではすでに使われ始めているが(Singh et al, Lancet Psychiatry 2017)、精神症状などの副作用や依存性の問題などが存在している(Berman et al, Biol Psychiatry 2000)。一方、シロシビンなどセロトニン5-HT2A受容体(以下、5-HT2A)刺激薬も即効性と持続性を有する抗うつ作用を示すことが報告された(Kyzar et al, Trends Pharmacol Sci 2017)。これら報告を踏まえ、2019年11月に米国FDAはシロシビンがうつ病治療のブレイクスルーになり得ると発表し、Usona研究所などにて大規模臨床研究が進められている(Nutt et al, Cell 2020)。我々は既にケタミンの抗うつ作用が5-HT2Aを介していることを見出しているが、5-HT2A刺激薬による抗うつ作用の分子メカニズムは分かっていない。そこで本研究では、5-HT2Aを介する抗うつ作用に関わる神経回路および抗うつ関連分子を明らかにし、ケタミンの抗うつ作用における5-HT2Aの役割を明らかにすることで、ケタミンの副作用や依存性などを抑えた薬物開発を本研究の目的とする。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
我々は、既にマウスを用いた強制水泳試験やショ糖嗜好性試験など行動薬理学的解析からマウスへのDOIなど5-HT2A刺激薬の急性投与が、抗うつ作用を示すことを明らかにした。またその時の活性化脳領域をc-Fos染色により調べたところ、ストレス応答や情動行動に関係する外側中隔核(LS)におけるc-Fos陽性細胞数の増加(神経活性化)が認められたが、その他の脳領域(前頭前皮質、縫線核など)ではc-Fos陽性細胞数の変化は認められなかった。さらに免疫組織化学染色法およびIn situ Hybridization法により、LSにおけるc-Fos陽性細胞が、GABA作動性神経であり、5-HT2Aを発現していることが分かった。加えて、LSのc-Fos陽性細胞が投射する脳領域を調べるために逆行性神経トレーサーのコレラ毒素(CTB)をLSの投射先に微量投与し、LSにおけるCTBシグナルとc-Fosの共局在を調べた。その結果、LSのc-Fos陽性細胞が投射する複数の脳領域を同定した。以上から、5-HT2A刺激薬の抗うつ作用には、LSに存在する5-HT2A陽性GABA作動性神経の神経ネットワークが関与している可能性が示唆された。 次に5-HT2A刺激薬の急性投与が、うつ病モデルマウスの情行動異常に与える影響について調べた。うつ病モデルマウスとして、コルチコステロン慢性投与マウスを用い、5-HT2A刺激薬投与24時間後に行動解析を行った。その結果、コルチコステロン慢性投与マウスで認められるうつ様行動および不安行動が5-HT2A刺激薬の投与によりコントロールレベルまで緩解した。以上から、5-HT2A刺激薬の急性投与はうつ病における情動行動異常を改善する可能性が示唆された。
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Strategy for Future Research Activity |
まず、LSにおける5-HT2Aが5-HT2A刺激薬による抗うつ作用にどの程度関与しているかを調べるために、アデノ随伴ウィルス(AAV)を用いてshRNAによるLSの5-HT2Aをノックダウンした後、5-HT2A刺激薬による抗うつ作用を行動薬理学的に解析する。さらに5-HT2A陽性細胞特異的にcreリコンビナーゼを発現する(Htr2a-cre)マウスにcre依存的AAVを用いることで、LSにおける5-HT2A陽性GABA作動性神経の活性化およびLS関連神経ネットワークが抗うつ作用に関わっているかどうかについて薬理遺伝学的・光遺伝学的手法を用いて検討する。 我々はDOIなど5-HT2A刺激薬の単回投与による抗うつ作用が短くとも3日間持続することを見出しており、このことはシロシビンを用いた臨床研究とも一致している(Aday et al, Neurosci Biobehav Rev 2020)。DNAの遺伝子配列には影響せず、遺伝子転写を制御するDNAのメチル化やヒストンの修飾のことをエピゲノムとよぶ。これらエピゲノムが関わる遺伝子転写制御機構は、薬効の持続性に関与している(Kalda and Zharkovsky, Int Rev Neurobiol 2015)。そこで、本研究ではマウスに5-HT2A刺激薬を処置し、RNA-seqによりLSにおける遺伝子発現を網羅的に解析し、エピゲノム関連遺伝子の変化を調べる。発現変化が認められたエピゲノム関連遺伝子からそれぞれの遺伝子により影響を受けるエピジェネチック制御機構について詳細を解析し、5-HT2A刺激薬の作用持続性に関わるエピゲノムを明らかとする。
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Causes of Carryover |
新型コロナウィルスの拡大に伴い参加予定であった複数の学会が中止となったため次年度使用額が0とならなかった。加えて、実験計画を一部変更し、2020年度への使用としたこともその要因の1つである。 次年度は、もし学会が開催されることとなれば、学会の旅費等に使用する。また論文投稿時の英文校正や投稿時に係る経費に使用したい。
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Research Products
(23 results)