2021 Fiscal Year Research-status Report
自然免疫受容体に対するアゴニスト抗体のワクチンアジュバントへの応用
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19K07491
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Research Institution | Aichi Medical University |
Principal Investigator |
山崎 達也 愛知医科大学, 医学部, 講師 (50624087)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 抗体遺伝子 / DNA免疫 / インフルエンザウイルス / RP105(CD180) / 遺伝子ワクチン / アジュバント |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、自然免疫受容体Radioprotective 105(RP105)に対するアゴニスト抗体(RP/14)を発現する抗体遺伝子を、DNA免疫法のアジュバントへ応用することを目的としている。抗体遺伝子を用いるメリットは、「①低コスト化②遺伝子組換えで、目的に応じて容易にその抗体構造を変えられる」があげられる。RP/14は強力なB細胞活性化能があるので、アジュバント効果も期待できた。 これまでの成果として、①膜貫通ドメイン遺伝子を付加したRP/14抗体遺伝子(膜型RP/14)がマウス脾臓B細胞を活性化できること、②実際に膜型RP/14抗体遺伝子とインフルエンザウイルス抗原遺伝子をマウスに同時に投与して、抗原特異的抗体価の有意な上昇が検出された。また、これら遺伝子投与によるウイルス感染防御効果も明らかにした。以上の成果は論文に発表することができた(Yamazaki T et al Front Immunol 2020)。 本年度では、さらにアジュバント効果を上げるために、RP/14抗体遺伝子の最適化を検討した。オリジナルのタンパクRP/14はラット由来の抗体であるが、マウスにおける抗原性を低くする必要があった。そのため抗体遺伝子の可変領域以外の定常領域遺伝子を、ラット遺伝子からマウス遺伝子に置き換えていた。しかし、この組換えはRP/14のB細胞活性化能を低下させた可能性があった。そこで、膜型RP/14のマウス遺伝子をラット遺伝子に組換えた(ラット膜型RP/14)ところ、B細胞の活性化能は著しく上昇した。また、定常領域のCH1ドメインが抗体結合能に大きく寄与していることが知られていた(Janda A et al Front Immunol 2016)。実際に、CH1ドメイン以外の定常領域遺伝子をマウス遺伝子に戻しても(キメラ膜型RP/14)、そのB細胞活性化能は低下しなかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
前年度に課題として、以下2点をあげた。1つ目は上記に示した「RP/14抗体遺伝子の最適化」で2つ目は「RP/14抗体遺伝子投与法の最適化」である。本年度では、2つの課題ともに取り組み、一定の結果を得ることができた。1つ目の課題に関しては、上記に示した通りである。 膜型RP/14のアジュバント効果をあげるために、遺伝子投与法の最適化も重要である。本研究によるマウスへの遺伝子投与法は、ハイドロダイナミクス法(尾静脈注射)を用いている。この方法では主に肝臓で遺伝子が発現することが知られている。実際にRP14抗体遺伝子を投与すると、投与後7日目で、血清中のRP14レベルはほとんど検出されなくなった。恐らくは、膜型RP/14の生体内の発現期間も同様であると考えている。別の遺伝子投与法として、エレクトロポレーション法がある。この方法は筋肉に遺伝子を投与するので、目的遺伝子が長期間保持されるという特徴がある。さらに、投与部位をヒアルロニダーゼ処理することで、遺伝子発現が有意に上昇することも知られている。 本年度では、実際にRP14抗体遺伝子をエレクトロポレーション法で投与したが、ヒアルロニダーゼ前処理をしても、血中に有意なレベルのRP/14は検出されなかった。エレクトロポレーション法でRP/14遺伝子を複数回投与するなどの検討が必要であると考えられた。一方で、RP105を発現していないマウス(RP105KOマウス)にRP/14をハイドロダイナミクス法(尾静脈注射)で投与したところ、少なくとも投与後14日でも、血清中のRP/14の高いレベルの持続性を確認している。自己抗原であるRP105に対するRP/14は、マウス体内においては「自己抗体」である。本年度の結果から、自己抗体をコードする遺伝子の発現持続性は短いという可能性も考えられ、抗体遺伝子のアジュバント効果を検討するうえで興味深い。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度では、以下の課題について取り組むことにする。 1.最適化したRP/14抗体遺伝子のアジュバント効果の評価:上記の、キメラ膜型RP/14をウイルス抗原遺伝子とともにマウスに同時に投与して、抗原特異的抗体価が上昇するか評価する。またその汎用性を評価するために、別のウイルス抗原(SARS-CoV-2のSタンパク抗原など)でも効果があるか、検討を行う。 2.キメラ膜型RP/14とウイルス抗原遺伝子の融合:本研究では、膜型RP/14と抗原遺伝子は、それぞれの遺伝子をコードする別々のプラスミドから発現させている。過去の研究で、タンパクRP/14抗体とタンパク抗原を共有結合させることで、強力なアジュバント効果を誘導できることが報告されている(Chaplin J et al J Exp Med 2013)。そこで、膜型RP/14にウイルス抗原を融合して発現する遺伝子のコンストラクションを検討する。具体的には、膜型RP/14遺伝子に抗原遺伝子の一部を融合させる、もしくは膜型RP/14の可変領域からCH1までの遺伝子と抗原遺伝子を融合させることを検討する。融合遺伝子の発現を確認できたら、マウス脾臓B細胞を活性化できるか解析を行う。 3.遺伝子投与方法(エレクトロポレーション法)の検討:RP/14遺伝子や膜型RP/14を筋肉に複数回投与して、血中(RP/14)や筋肉(RP/14,膜型RP/14)でそれぞれの遺伝子発現の解析を行う。 2―3の検討を確認できたら、それぞれの方法で実際にマウスへ投与を行い、膜型RP/14抗体遺伝子のアジュバント効果を評価する。
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Causes of Carryover |
計画年度内において、RP105に対するアゴニスト抗体(RP/14)を発現する抗体遺伝子を作製し、インフルエンザをモデルとしたDNA免疫法におけるアジュバント効果を評価することができた。またこの成果を論文発表することもできた。しかし、ウイルス感染をかなり低いレベルに抑制できるほどの、強いアジュバント効果はまだ得られていない。本研究課題において、いくつか検討すべき課題が明らかだったので、予定年限よりも延長して本研究課題に取り組むことにした。 本年度においては、RP/14遺伝子構造の検討に重点をおいていたので、予定よりも動物実験の回数が少なかった。それにともなって、使用金額も予定よりも少なくなった。 次年度助成金の主な使用計画は、マウス購入・維持費や研究用試薬(プラスミド精製キット、解析用抗体、プライマーなど)の購入に約70万円、日本免疫学会への発表のための旅費や参加費に約10万円を計上する。
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Research Products
(3 results)