2022 Fiscal Year Research-status Report
自然免疫受容体に対するアゴニスト抗体のワクチンアジュバントへの応用
Project/Area Number |
19K07491
|
Research Institution | Aichi Medical University |
Principal Investigator |
山崎 達也 愛知医科大学, 医学部, 講師 (50624087)
|
Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2024-03-31
|
Keywords | 抗体遺伝子 / 遺伝子免疫 / アジュバント / RP105(CD180) / TLR / B細胞 / インフルエンザウイルス / 糖鎖 |
Outline of Annual Research Achievements |
TLRファミリー分子のRadioprotective 105(RP105)に対するアゴニスト抗体(RP/14,ラットハイブリドーマ由来)は強力なB細胞活性化能がある。タンパク抗原とともにRP/14をマウスへ接種することで、抗原特異抗体レベルの増強効果(アジュバント効果)が示されている(Chaplin J W et al J Exp Med)。本研究では、RP/14を発現する「抗体遺伝子」を、遺伝子免疫におけるアジュバントへ応用することを目指している。タンパク抗体に比べ抗体遺伝子の精製コストは低く、また遺伝子工学技術で容易にその抗体構造を変えられるという利点がある。 これまでの成果として、膜貫通ドメイン遺伝子を付加したRP/14抗体遺伝子(膜型RP/14)とインフルエンザウイルス抗原遺伝子をマウスに同時に投与すると、抗原特異的抗体レベルは有意に上昇することを報告した(Yamazaki T et al Front Immunol 2020)。昨年度では、RP/14抗体遺伝子の最適化を検討した。マウスにおける抗原性を低くするため、用いた膜型RP/14は、可変領域以外の定常領域(C)遺伝子をマウス遺伝子に置き換えていた(キメラ膜型RP/14)。しかし、キメラRP/14のB細胞活性化能は、オリジナルのRP/14に比べかなり低下していたので、定常領域の一部(CH1)をラット遺伝子に復帰させたところ、そのB細胞活性化能は著しく上昇した。 昨年度のこの知見をもとに、キメラ膜型RP/14の遺伝子構造を修正し、ウイルス抗原とともにマウスに投与したが、高いレベルのアジュバント効果は得られなかった。Chaplinらは、RP/14と抗原の共有結合がそのアジュバント効果に必須であるとしている。そこで、膜型RP/14とウイルス抗原の融合遺伝子を作製し、B細胞活性化能を評価した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
前年度の課題として、以下3点をあげていた。1.修正したキメラ膜型RP/14抗体遺伝子のアジュバント効果の評価(上記記述)、2.キメラ膜型RP/14抗体遺伝子とウイルス抗原遺伝子の融合遺伝子の作製、3.遺伝子投与方法(エレクトロポレーション法)の検討。今年度は、主に「2」の検討に取り組んだ。 本研究で使用しているインフルエンザウイルス抗原は、ウイルスの膜タンパクの1つヘマグルチニン(HA)である。HAは感染受容体に結合するタンパクであるので、ワクチンの主要なターゲットである。まず最初に、キメラ膜型RP/14抗体遺伝子とHA遺伝子を単純に融合した遺伝子を作製したが、発現を確認できなかった。次に、HA遺伝子の一部の遺伝子とキメラ膜型RP/14抗体遺伝子を融合した遺伝子を作製したが、こちらも発現を確認できなかった。そこで、RP/14抗体のFab(可変領域+定常領域CH1ドメイン)とHA遺伝子を融合した遺伝子を作製したところ、両者を細胞膜上に発現できた。このRP/14(Fab)+HA遺伝子からは、膜タンパクであるHAのN末にRP/14(Fab)が付加した構造が発現する。しかしながら、このRP/14(Fab)+HAを細胞膜上に発現させて、脾臓B細胞と共培養しても、B細胞の活性化は認められなかった。さらに詳細な構造の検討が必要であると考えられた。ゆえに、今年度は「3」の検討には着手できなかった。 本研究の目的である、RP/14抗体遺伝子をアジュバントへ応用するために、RP105を介したB細胞活性化メカニズムの詳細を解明することも重要である。RP105は、可溶性タンパクMD-1と会合することで、細胞膜上に発現できるとされている(Miura Y et al Blood 1998)。なぜ細胞膜上の発現にMD-1が必須であるのかは不明であったが、その一端を解明することができた(下記に記述)。
|
Strategy for Future Research Activity |
RP105の細胞膜発現におけるMD-1の役割を解明するため、ヒト(h)RP105/hMD-1をHEK293T細胞に発現させるモデルを用いて、MD-1の有無におけるRP105の発現をウエスタンブロッティングで解析した。まずMD-1の存在下では、大きさの異なる2本のバンドが検出された(サイズの大きい方を「U form」, 小さい方を「L form」とした)。興味深いことに、MD-1非存在下におけるRP105の発現は、L formのみが検出された。 そこで、RP105やMD-1に付加した糖鎖に着目し、それぞれの糖鎖欠損変異体を作製した。まず糖鎖欠損RP105をMD-1とともにHEK293T細胞に発現させたところ、L formが主に検出された。ゆえに、RP105の2つのformの形成には糖鎖付加が重要であることが示唆された。また糖鎖欠損RP105は細胞膜発現レベルが著しく低下したことから、U formの形成が細胞膜発現に重要であると考えられた。つぎに、糖鎖欠損MD-1を作製してRP105とともに発現させたところ、L formが主に検出された。これらの結果より、MD-1に付加した糖鎖はRP105の糖鎖付加に関与することで、RP105の細胞膜発現を制御している可能性が示唆された。以上の結果は、論文報告することができた(Biswas M et al FEBS lett 2022)。次年度では、RP105の2つのformを区別できるモノクローナル抗体を作製し、B細胞活性化メカニズムにおける両者の寄与を解明する。 また、RP/14はRP105を架橋することでB細胞を活性化する、とされているが、実際にそれを証明した報告はほとんどない。次年度では、RP/14のエピトープを同定し、構造的なアプローチで、RP/14によってRP105が架橋されるかどうかを解明する。
|
Causes of Carryover |
昨年度からの課題である、膜型RP/14抗体の遺伝子最適化は十分ではない。抗原とRP/14抗体の融合遺伝子の作製に取り組んでいるが、有意なレベルのB細胞活性化は得られていない。抗体遺伝子構造の最適化のためには、B細胞活性化におけるRP105の分子メカニズムを解明する必要があると考えている。1つは会合因子MD-1によるRP105の細胞膜発現制御についてで、もう1つはRP/14によるRP105の架橋の是非である。後者の課題において、結晶構造解析から、RP105は「invert ω構造」のホモダイマーを形成しているとされている( Yoon Si et al Nat Struct Mol Biol 2011)。RP/14のエピトープを同定することで、RP105のホモダイマー構造のどの位置にRP/14が結合するかが明らかとなり、RP/14によって、RP105分子が架橋されるかどうかを推定できると考えている。 次年度助成金の使用計画は、主には研究用試薬(プラスミド精製キット、トランスフェクション試薬、プライマーなど)の購入に約30万円使用する予定である。
|
Research Products
(6 results)