2019 Fiscal Year Research-status Report
Role of HMGB1 on anti-tumor immunity and its application for cancer immunotherapy
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19K07742
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Research Institution | Kurume University |
Principal Investigator |
山田 亮 久留米大学, 付置研究所, 教授 (50158177)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
和氣 加容子 久留米大学, 付置研究所, 助教 (40649597)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | HMGB1 / 腫瘍免疫 / ゲノム編集 / 免疫療法 / 腫瘍微小環境 / マウス |
Outline of Annual Research Achievements |
HMGB1は細胞死により核内から細胞外へ放出されるタンパク質であり内因性危険シグナルである。申請者らの研究によりHMGB1は免疫抑制的に作用することが示唆されている一方で、自然免疫の惹起とそれに続く特異免疫応答の誘導に重要であるとも考えられており、「HMGB1が抗腫瘍免疫において善玉なのか?あるいは悪玉なのか?」は明確ではない。そこで、本研究では、①HMGB1の腫瘍細胞に対する作用、②HMGB1の宿主免疫系への作用、③HMGB1の治療への応用、の3点について腫瘍免疫学の立場から明らかにし、その成果のがん免疫療法への応用を目指す。 本年度は、①HMGB1の腫瘍細胞に対する作用、および②HMGB1の宿主免疫系への作用について明らかにすることを目指し、HMGB1欠損細胞株の樹立を行った。マウス悪性黒色腫細胞株B16F10細胞にCRISPR/Cas9システムを用いてゲノム編集を行いHMGB1欠損細胞株を複数樹立した。HMGB1欠損株及び野生型B16F10細胞との間に形態学的な差異は認められず、in vitroでの細胞増殖においても差は認められなかった。次に代謝への影響について調べた。欠損株及び野生株をin vitroで培養し、24時間後及び48時間後の培養上清中のグルコース濃度を測定したが、欠損株及び野生株間で差は認められなかった。nCounterを用いて770個のがん関連遺伝子の発現についても調べたが、両者に大きな違いは認められなかった。 次に、C57BL/6(B6)マウスの皮下に移植し、両者の腫瘍形成能および増殖能を検討した。その結果、野生株に比べHMGB1欠損株の増殖スピードは極めてゆっくりであった。一方、ヌードマウスの皮下に移植した場合には両者に大きな違いは認められなかった。以上のことから、腫瘍由来のHMGB1はT細胞を介した抗腫瘍免疫を抑制していることが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、①HMGB1の腫瘍細胞に対する作用、および②HMGB1の宿主免疫系への作用について明らかにすることを目指し、HMGB1欠損細胞株の樹立を行った。マウス悪性黒色腫細胞株B16F10細胞にCRISPR/Cas9システムを用いてゲノム編集を行いHMGB1欠損細胞株を複数樹立した。HMGB1欠損株及び野生型B16F10細胞との間に形態学的な差異は認められず、in vitroでの細胞増殖においても差は認められなかった。次に代謝への影響について調べた。欠損株及び野生株をin vitroで培養し、24時間後及び48時間後の培養上清中のグルコース濃度を測定したが、欠損株及び野生株間で差は認められなかった。nCounterを用いて770個のがん関連遺伝子の発現についても調べたが、両者に大きな違いは認められなかった。 次に、C57BL/6(B6)マウスの皮下に移植し、両者の腫瘍形成能および増殖能を検討した。その結果、野生株に比べHMGB1欠損株の増殖スピードは極めてゆっくりであった。一方、ヌードマウスの皮下に移植した場合には両者に大きな違いは認められなかった。このことから、腫瘍由来のHMGB1はT細胞を介した抗腫瘍免疫を抑制していることが示唆された。さらに、今回見出した現象の一般化を図る目的で、マウス大腸癌細胞株CT26においてもHMGB1欠損株の作製を開始した。 以上のことより、研究はおおむね計画通りに順調に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
樹立したHMGB1欠損株及び野生株にレンチウイルスベクターを用いてHMGB1を恒常的に発現させることにより、C57BL/6マウス皮下移植腫瘍の増殖が回復ないし、促進されることを確認する。これらによりオフターゲット効果を否定したのちに以下の研究を行う。 HMGB1の宿主免疫系への作用:①非能動免疫マウスにおける解析:HMGB1過剰発現、欠損株もしくは野生株をB6マウスに皮下移植し、腫瘍組織へのリンパ球浸潤の差異を検討する。次に、免疫染色および網羅的遺伝子発現解析により腫瘍組織内の免疫関連細胞のプロファイリングを行う。これらにより、CTLやヘルパーT細胞サブタイプ、Treg, MDSCなど腫瘍微小環境に及ぼす腫瘍由来HMGB1の作用を明らかにする。②能動免疫マウスにおける解析:HMGB1過剰発現、欠損株もしくは野生株のB16F10(Trp2+)細胞をB6マウスに皮下移植し、Trp2180-188ペプチドを免疫し、上記①と同様のプロファイリングを行う。③マウス大腸癌細胞株CT26においてもHMGB1欠損株を作製し、一般化を図る。 HMGB1の治療への応用:①がんワクチン療法への応用:野生型のB16F10細胞をB6マウスに皮下移植し、腫瘤形成後にTrp2180-188ペプチドを免疫する。この実験系において、ワクチン投与開始と同時にもしくは開始前よりグリチルリチンを投与し、腫瘍増殖及び生存期間を検討する。グリチルリチンは腫瘍内もしくは腹腔内に毎日投与する。また、上記同様のプロファイリングを行う。②免疫チェックポイント阻害療法への応用:野生型のB16F10細胞をB6マウスに皮下移植し、腫瘤形成後に抗PD-1抗体もしくは抗PD-L1抗体を投与する実験系において、上記①と同様にグリチルリチンを投与し、腫瘍増殖や生存期間及び腫瘍微小環境の変動を検討する。
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