2020 Fiscal Year Research-status Report
HBV遺伝子のヒト遺伝子への組み込みに対する統合的遺伝子解析から肝発癌を予測する
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19K08427
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Research Institution | Nagoya City University |
Principal Investigator |
藤原 圭 名古屋市立大学, 医薬学総合研究院(医学), 講師 (70635804)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
飯尾 悦子 名古屋市立大学, 医薬学総合研究院(医学), 研究員 (20543797)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | B型肝炎 / 肝発癌 / 遺伝子変化 |
Outline of Annual Research Achievements |
現在、世界中で2億5千7百万人がB型慢性肝疾患に罹患していると報告され、そのうち毎年約100万人がB型肝炎ウイルス(HBV)による肝硬変や肝がんで命を失っている。HBVは世界で最も深刻な感染症の一つである。我々は、これまでに、HBVに関する、遺伝子型や遺伝子変異、世界におけるHBV遺伝子型の分布等、HBVと遺伝子に関連する研究を多数行ってきた。また、現在行われているHBVに対する核酸アナログ製剤の治療効果、治療抵抗性の遺伝子変化など、臨床的な研究も行っている。 今回、我々が世界に先立って報告したcomplex structural variation (SV)が臨床的にどのような意義があるかを検討するために、発癌との関連について調べている。Complex SVsを起こしているHBV例について、過去に確認された70例に加えて、さらに世界からDDBJ/EMBL/GenBankといった公共データベースに登録されているHBV遺伝子配列を追加解析し、15例の新規配列を検出し、全体として世界で85例の症例が確認できている。この85例に関してcomplex SVsを構成する遺伝子変化のパターン、HBV遺伝子型、挿入モチーフ配列の特徴を詳細に解析している。この解析により得られるパターンを基本情報として現在実験を行っているヒトゲノムにHBVがインテグレーションされる際のパターンと比較して発癌に関する詳細な検討を行う。血清・肝組織におけるHBV遺伝子、ヒト遺伝子に組み込みされたHBV遺伝子配列を検出、HBVに関して全塩基配列決定、さらにヒトゲノム内のHBV解析を行っている。また、今回検討を行う配列と比較するために、既知の肝細胞癌例ヒトゲノム全塩基配列のデータベース登録例についても解析を進めている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
現在のところ、研究は計画通りに進行している。HBVの新しい遺伝子変化であるcomplex SVsについては、現在までのところ85症例を検出している。85例を発見した段階で、日本肝臓学会東部会のワークショップ“宿敵B型肝炎ウイルスに挑む”に応募し、採択され、2020年12月に事前録画のWeb形式で発表を行った。臨床的な意義について、質問がなされ、発癌や慢性肝疾患の進行、劇症肝炎の発症に関連が予想されることを説明している。現在継続して、B型慢性肝疾患や肝細胞癌発症例の血清、肝組織から核酸抽出を行い、HBVの全塩基配列をPCRで増幅後に、直接塩基決定法で遺伝子配列を決定する実験を行っている。 遺伝子断片のインテグレーションはHBVにおいては、一般的に、HBVの遺伝子断片が、ヒトゲノムに挿入される状態を示す。HBVの遺伝子配列1例では、過去に報告のない、ヒトゲノム断片が、ウイルスゲノムに挿入された遺伝子構造がみられた。これは、遺伝子断片の挿入という遺伝子変化においては、HBV遺伝子がヒトゲノムに挿入されることをインテグレーションと過去30年に渡り考えられていたが、ウイルスからヒトゲノムだけでなく、ヒトゲノムからウイルスゲノムへという双方向性を示唆していると考える。現在、SVは各分野のゲノム解析において注目されており、関連する論文は増加傾向にある。今回、学術雑誌、”Viruses”特集号にHBVのおけるcomplex SVsとstructural variation polymorphismsに関する総説を投稿し2021年3月に雑誌に掲載されている。ひきつづき、遺伝子変化に関する新しい概念を導入しながら、肝発癌の検討を進める。
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Strategy for Future Research Activity |
もともとHBVに起こるcomplex SVという新しいタイプの遺伝子変化を基本として今回の検討が行われている。ヒトゲノムへのHBVのインテグレーションがヒトゲノムにとってのSVであり、HBVに起こるcomplex SVと同様なヒトゲノムの欠損がインテグレーションに伴って生じている例を解析して、そのパターンと発がんに関連性につき検討を進める。 現在の検体を用いた遺伝子増幅から遺伝子塩基配列決定を行い、さらにバイオインフォマティックスを用いた解析を行う。また、Dr. Li, Dr. Mathkarらのグループは88例の肝細胞癌症例の全ゲノム配列をVIcallerという解析メソッドを用いて、HBVのインテグレーションのbreakpointsを明らかにしている (Viruses 2021)。88例のヒトゲノム解析例は、香港由来ということが分かっている。このデータの利用は可能であるため、このヒトゲノムのデータ、さらにDr. Li, Dr. Mathkarらがそのデータをもとにバイオインフォマティックスで解析したデータも使用できるため、これらを今回我々が行っているデータと比較検討することで、詳細な解析が可能になると考えている。Complex SVsはヒトに感染するHBV遺伝子や肝発癌のみならず、ヒト以外に感染するHBVにおいても重要な遺伝子変化と考えられる。現在、ヒト以外の霊長類HBVにおけるcomplex SVsの解析報告を投稿中である。研究代表者らの解析している遺伝子変化は、世界の著名なB型肝炎研究者に認知されるようになってきている。
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Causes of Carryover |
旅費、物品費が計画より減額しております。次年度に学会や研究会の出張や、実験試薬の購入に使用を予定しております。
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