2019 Fiscal Year Research-status Report
声帯上皮における接着分子発現と胃酸逆流による影響の解析
Project/Area Number |
19K09889
|
Research Institution | Fujita Health University |
Principal Investigator |
楯谷 一郎 藤田医科大学, 医学部, 教授 (20526363)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
楯谷 智子 京都先端科学大学, 健康医療学部, 准教授 (10512311)
樋渡 直 京都大学, 医学研究科, 特定助教 (10808778)
岸本 曜 京都大学, 医学研究科, 助教 (80700517)
勝野 達也 京都大学, 医学研究科, 研究員 (90527665)
|
Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
Keywords | クローディン / 声帯 / タイト結合 |
Outline of Annual Research Achievements |
胃食道逆流症(Gastro Esophageal Reflux Disease:GERD)では、胃酸が食道へ逆流することにより、胸やけなどの不快な自覚症状を感じる。GERDが耳鼻咽喉科疾患に影響を及ぼすことは以前から欧米で指摘されていたが、本邦でも生活環境の変化や食生活の欧米化などによりその発症が増えてきている。GERDは食道症候群と食道外症候群に分類されているが、食道外症候群では特に音声障害との関連が強く、声帯上皮の角化、潰瘍形成、肉芽形成、粘膜産生低下や、声帯溝症などを来し得ることが報告されており、音声障害患者の最大50%にGERDを認めることが報告されている。声帯は数百Hzの高周期で振動し音声を発生する組織であり、その表面は重層扁平上皮で覆われている。声帯上皮は喉頭内腔面に接しており、そのバリア構造により胃酸逆流を含む外的刺激から内部組織が守られていると考えられる。上皮組織のバリア構造においてタイト結合が重要な役割を担っており、特にクローディンはタイト結合の接着構造形成を担い、タイト結合の形成に関わる主要なタンパク質であることが知られている。クローディンには20以上のサブタイプが存在し、その組み合わせによって、タイト結合の特性が決定されている声帯上皮におけるタイト結合の存在は電子顕微鏡による研究により報告されているものの、構成タンパクの局在については我々がオクルディンの局在を報告している他には、クローディンを含め明らかにされていない。本研究の学術的「問い」は、正常声帯上皮におけるバリア機構の解明とGERDによる音声障害の発生機序の解明である。本年度はRT-PCRによって声帯組織で発現しているクローディンサブタイプを解析し、正常声帯組織でmRNAを発現しているクローディンを同定した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
正常のラット摘出喉頭から両側声帯を顕微鏡下で剥離後にRNAを抽出し、逆転写してcDNAを作成した。ラットClaudinの23種類のサブタイプについて、それぞれのプライマーをデザインし、定量的PCRを行った。定量的PCR実施にあたってはポジティブコントロールのサンプルを用いて定量曲線を引き、R2>0.98以上のものを採用した。声帯からのサンプル採取に際してはオス13週齢のSprague-Dawleyラットから喉頭を摘出し、実体顕微鏡下で観察しながら声帯上皮を採取した。結果として、クローディン-1, -3, -4, -5, -6, -7, -8, -10, -11, -12, -17, -22, -23のmRNA発現が確認された。クローディンの各サブタイプの機能としては、主にバリア機能を持つもの、チャネルを形成して透過性を与えるもの、サイズ選択的に分子輸送に関わるもの、臓器特異的に発現しているものなどが報告されているが、声帯組織においてはイオンチャネル構成分子として重要なクローディン-2, -15, -16の発現を認めなかった。また、酸バリアとして働くクローディン-18は正常の声帯には発現を認めず、逆流性食道炎に対する声帯組織の易刺激性への関与が疑われた。一方イオンチャネルとして機能するクローディン-7, -10, -17の発現を認めたが、声帯にmRNA発現しているその他のクローディンサブタイプは概ねバリア機能が主要な役割のものであった。発声には規則的な粘膜振動が重要であり、粘弾性を持つ声帯の表面は非角化重層扁平上皮で覆われている。一方で、外界からの微生物や毒物に絶えず曝されており、角質層のない声帯上皮はタイト結合のバリア機能がより重要となる。声帯上皮におけるタイト結合の役割は主にバリア機能であることが推察された。
|
Strategy for Future Research Activity |
本年度の研究により声帯組織でmRNAを発現していることが確認されたクローディンサブタイプについて、サブタイプの抗体を入手して、声帯上皮における発現の有無と発現部位を免疫染色で解析する。次に酸による声帯傷害モデルを作成する。複数の濃度の塩酸溶液を経口的に挿入した内視鏡で観察しながら声帯に塗布し、塗布2時間後に喉頭を摘出して声帯組織構造を評価する。酸による障害が上皮粘膜基底層に留まっている濃度を本研究における至適濃度とし、酸による声帯傷害モデルとする予定である。次に確立された声帯傷害モデルを用いて声帯傷害後1週間、2週間、4週間、8週間におけるクローディンサブタイプの発現変化を経時的に解析する。また、声帯傷害後の上皮バリア機能の経時的変化をビオチン化試薬により解析する。ビオチン化試薬はバリア機能を有する上皮を浸透しないことが知られており、バリア機能が正常であれば、喉頭内腔にビオチン化試薬を塗布しても試薬が上皮を通過することはないが、バリア機能が破綻している上皮では試薬は粘膜固有層に浸透する。ビオチン化試薬を塗布することで、上皮バリア機能が声帯傷害後のどの時点で回復するかを評価する。ビオチン化試薬による実験で上皮バリア機能が回復したタイミングと同時期に発現が回復したクローディンサブタイプがラット声帯上皮のタイト結合における主要なサブタイプと考えられ、声帯上皮での主要なクローディンサブタイプが決定できる。腫瘍サブタイプが欠損しているノックアウトラットを入手し、同ラットの声帯上皮バリア機能が破綻していることを確認する。
|
Causes of Carryover |
実験遂行に必要な試薬を節約できたため、6001円の次年度使用額が生じた。次年度は当該実験に必要な試薬の購入に充てる予定である。
|