2019 Fiscal Year Research-status Report
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19K10184
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Research Institution | The University of Tokushima |
Principal Investigator |
浜田 賢一 徳島大学, 大学院医歯薬学研究部(歯学域), 教授 (00301317)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | スマートセメント / イオン液体 / スマート材料 / 電気伝導性 / 接着強度 / 剥離 / 荷電密度 |
Outline of Annual Research Achievements |
初年度は,イオン液体を添加したレジン添加型グラスアイオノマーセメント(以下,試作セメント)を蒸留水の浸漬した際の,電気伝導性の経時変化と,通電後の接着強度の低下幅の経時変化を調べた。コントロールとして,イオン液体を添加しないレジン添加型グラスアイオノマーセメント(以下,GIC)の評価も行った。 試作セメントを1日浸漬したところ,電気伝導性が向上した。これは,セメントのポリアクリル酸マトリックスが親水性であるため,マトリックス中に水が拡散し,イオンの可動性が増加した結果と考えられた。通電後の接着強度の低下幅は,浸漬しない試作セメントよりも大きく,荷電密度の増加に対応していると考えられた。7日,14日浸漬した試作セメントの電気伝導性は,1日浸漬した試料より低下したが,浸漬しない試作セメントよりは大きかった。電気伝導性の低下は,セメント中のイオンが溶出したためと考えられた。通電後の接着強度の低下幅は,1日浸漬後の試作セメントよりは小さく,荷電密度の変化と一致していたが,浸漬しない試料よりは大きかった。14日浸漬でも接着強度が低下したことから,イオンの溶出速度は高くはなく,口腔内でもある程度の期間,機能を維持すると期待された。 一方,1日浸漬したGICでは,電気伝導性が向上し,通電後に接着強度が低下するようになった。これは,硬化時の酸-塩基反応後も消費されなかったイオンがマトリックス中に残留していたところに水が拡散した結果,イオンの可動性が増加した結果と考えられた。7日,14日浸漬後は電気伝導性が低下し,接着強度の低下幅も減少した。 以上から,GICはイオン液体を添加しなくても通電により接着強度が低下するスマートセメントと考えることができるが,イオン液体の添加は接着強度低下に有効であると結論した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
試作セメントとGICを蒸留水に浸漬し,電気伝導性と接着強度の低下幅を評価した結果,セメントからのイオンの溶出に加えて,セメントへの水の拡散が影響することを見出した。今後の実験において,セメントと外界との間に生じる,イオンと水の2つの物質の出入りを考察する必要が明らかとなった。従来は,セメントからのイオンの溶出防止のみを検討対象としてきたが,イオンが溶出しないセメント表面は水も透過しにくいと考えられ,電気伝導性の確保の観点からは,異なる対策も検討する必要性が示された。 GICを水に浸漬すると電気伝導性が増加し,イオン液体を添加していなくても通電により接着強度が低下する点は想定外の新発見であり,今後のスマートセメント開発で機能発現手法の一つとして考慮に値する。また,この事実は,口腔内でGICで接着した金属製修復物が,ガルバニック電流で外れやすくなる危険性を示唆しており,臨床的にも意味のある発見と考えられる。 初年度の実験では,浸漬期間2週間までしか評価できなかったが,臨床応用を視野に入れると更に長期間の評価が必要である。初期評価では浸漬液として蒸留水を用いたが,口腔内のセメントが蒸留水のようにイオン濃度の低い液体に暴露される機会はむしろ少なく,各種飲料やスープのように様々な種類,濃度の電解液にさらされることを考えると,実際のイオン溶出速度はさらに低い可能性もあり,初期評価としては十分な浸漬期間であったと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
初年度の蒸留水浸漬による評価に続き,2年度は実際の口腔内環境を模擬した液体への浸漬実験を行う。口腔内にもっとも長時間存在する液体は唾液だが,唾液に含まれるイオン種は多く,また,分泌直後から乾燥が進むにつれイオン濃度が変化することから,完全な模擬実験は煩雑である。そこで,代表的なイオン種としてNaClを用いる。分泌直後の唾液の総イオン濃度が概ね0.3%とされるので,これより高濃度側のNaCl水溶液中に浸漬して評価を行う。口腔内に存在する電解液としては,炭酸飲料のような酸性飲料や,各種のスープなどが挙げられるが,摂取に適切なNaCl濃度は概ね10%以下とされるので,これを上限として濃度を変化させる。 上記評価に基づき,セメントへの水とイオンの拡散,あるいはセメントからのイオンの溶出挙動に対する,表面処理の影響を調べる。当初の研究計画にある通り,光照射によりセメント表面のレジンの硬化を促進させることにより,電気伝導性の経時変化に差が生じるか,そして接着強度の低下幅の経時変化に差が生じるかを明らかにする。光照射により硬化したレジンはポリHEMA(メタクリル酸2-ヒドロキシエチル)であり,親水性が高いことから水の拡散を完全に遮断することはないと推測している。また,水の拡散とともにイオンも拡散することが予想され,光照射によってセメントと浸漬液との間の物質移動を完全に遮断することはないと推測している。しかし,物質移動の速度を低下させる効果は十分に期待され,試作セメントの接着強度低下機能の長期的維持への有効性を評価する。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた理由の1つは,初年度のコントロール実験として行ったイオン液体を添加しないGICにおける水の拡散とイオン溶出の影響評価を,より詳細に検討する実験に重点を置いたため,当初計画の実験を2年度以降に繰り延べたことである。 2年度の使用計画としては,当初計画で初年度に予定していた実験を行うとともに,浸漬液としてNaCl水溶液を用いた実験も並行して行い,より臨床に近い環境での評価を確立する。
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Research Products
(2 results)