2020 Fiscal Year Research-status Report
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19K10184
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Research Institution | The University of Tokushima |
Principal Investigator |
浜田 賢一 徳島大学, 大学院医歯薬学研究部(歯学域), 教授 (00301317)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | スマートセメント / イオン液体 / スマート材料 / 電気伝導性 / 接着強度 / 剥離 / 荷電密度 |
Outline of Annual Research Achievements |
前年度の結果として,レジン添加型グラスアイオノマーセメント(以下,GIC)を蒸留水に浸漬すると,GICが吸水してGIC中の残留イオンの可動性が増加し,電気伝導度が増加すること,そして通電により接着強度低下が可能となることがわかった。これらから,GICを電解液に浸漬すると電気伝導度がより向上し,接着強度をより低下可能と期待できた。また,口腔内で歯科用セメントが接する液体は主に唾液等の電解液であることから,電解液への浸漬は実環境により近いと考えられた。 そこで本年度は,GICを様々な濃度のNaCl水溶液に浸漬し,電気伝導度と通電による接着強度低下に生じる影響を調べた。浸漬するNaCl水溶液の濃度の最大値は,調味料の中で高塩分濃度である醤油を基に,15%(mass/ml)とした。 GICを濃度15%のNaCl水溶液に浸漬すると,浸漬時間1時間で電気伝導度が大きく向上した。濃度が低いNaCl水溶液でも同様の効果が確認されたが,電気伝導度向上の幅は小さくなった。一方,電気伝導度が大きくなったにもかかわらず,通電後の接着強度の低下には顕著な差がなかった。接着強度試験後の接着界面を観察すると,セメント外周部はアノード側での界面破壊が,セメント中心部ではカソード側での界面破壊が優勢であった。 このことから,NaCl水溶液浸漬の効果の機序を次のように考察した。まず,NaCl水溶液浸漬により,セメント外周から中心部に向かって水とイオンが拡散し,外周部のセメントの電気伝導が大きく増加した。その結果,全体の電気伝導度は向上したが,向上したのは外周部だけで,接着面積に占める割合が少ないため,接着強度には大きな変化が生じなかった。また,NaイオンおよびClイオン存在下での電気化学反応とGIC中の残留イオン存在下での電気化学反応が異なることから,界面破壊が生じる極が反転した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
親水性レジンをマトリックスとするGICにおいて,含有イオンが溶出することへの対策を目指して始まった本研究だが,逆にGICが外部からイオンや水を取り込み,それが通電による接着強度低下に影響する可能性を見出したことから,現在はイオンの溶出を防止する方向と,イオンを外部から追加する(イオンのリチャージ)方向の両面からの対策を検討している。積極的なリチャージを行わなくても,唾液や様々な電解液に接触する歯科用セメントがリチャージされる可能性はあり,イオン溶出の抑制効果が期待できる。加えて,短時間でのリチャージが可能であれば,接着箇所の剥離を行う直前の短時間に処理するだけで,通電による接着強度低下が可能となりうる。 このように,当初想定していた手法を大きく拡大して課題解決法を探っていることから,進捗速度は必ずしも速くはないが,多方面からのアプローチによる知見の充実と,使用可能な手法候補の拡充は,本研究の進捗に貢献しているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
まず,学術的観点から,イオン種の変化にともない界面剥離を生じる極が変化する機序を調べる。本研究で生じているのはイオンゲル中での電気化学反応であるが,基本的な機序の検討には水溶液中での検討が欠かせない。そのため,イオン液体水溶液とNaCl水溶液を用いて,電圧変化による陽極/陰極反応の変化を明らかにする。その際,界面破壊の機序と推測しているイオン溶出と水素発生に注目する。次いで,イオンゲル中での実験を行うが,陽極/陰極反応の確認を容易に行うため,スライドガラスで挟むなどの方法によりゲルの厚みを極力小さくして実験を行う。また,リチャージするイオン種の候補を検討し,臨床的に可能性のあるものがあれば,同様の評価を行う。 イオンのリチャージの有効性の検討としては,浸漬するNaCl濃度と浸漬時間を拡大して検討し,特に短時間チャージの有効性を検証する。これまでの知見から類推すると,セメント外周部の電気伝導性を高くし過ぎると中心部に電気が流れにくくなり,接着強度が逆に低下しにくくなっている可能性があるため,接着強度低下に有効な条件が存在するか確認する。 最後に,当初の研究計画で候補としていた,光重合促進によるイオン溶出抑制の有効性を評価する。これに付随して,光重合によりセメント外周部の硬化を促進した場合に,外部からのイオンのリチャージ特性がどのように変化するかも合わせて評価する。 以上の手段を総合的に用いることで,イオン液体含有GICの電気伝導性と通電剥離能を口腔内で長期間維持すること,あるいはリチャージにより必要に応じて特性を回復させることが可能であるかを判断する。
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Causes of Carryover |
COVID2019の影響で,参加を予定していた国際学会の開催が延期されたり,Web開催となったことから,旅費が不要となった。その結果,今年度の学会参加関連経費が大幅に減額となり,次年度使用額が大きくなった。次年度も同様に学会参加関連経費がほとんど不要となる見込みであり,その分を物品費として実験装置の購入に充てる。具体的には,光重合用の光照射器,電気化学実験装置であるポテンショスタットが候補である。
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Research Products
(2 results)