2020 Fiscal Year Research-status Report
熱帯性慢性腎臓病に関連する新規ハンタウイルス、ランカウイルスの解析
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19K10595
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
森松 組子 (吉松組子) 北海道大学, 遺伝子病制御研究所, 准教授 (90220722)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
清水 健太 北海道大学, 医学研究院, 助教 (20466840)
津田 祥美 北海道大学, 医学研究院, 講師 (70447051)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 慢性腎臓病 |
Outline of Annual Research Achievements |
原因不明の重症型慢性腎臓病(CKDu)が熱帯地域から報告されている。近年私達はスリランカにおいてハンタウイルス感染がCKDu発症に関与することを報告した。さらにCKDu流行地のげっ歯類からスリランカ固有のハンタウイルスを検出した。本研究ではこの新規ハンタウイルスの診断法を開発し、さらにこれらを用いて、ランカウイルスの感染状況およびCKDu発症機序の解明を試みる。 齧歯類の調査の結果、スリランカのCKDu流行地において、2種類のタイランド型ハンタウイルス関連ウイルス、ランカウイルスとアンゾロベウイルス近縁ウイルスを見いだし、次世代シーケンサーを用いて全ゲノム解析を複数の宿主齧歯類から完了した。ウイルス遺伝子配列を利用して発現させた組換え核蛋白(N)およびエンベロープ糖タンパク(GP)を用いて、モノクローナル抗体を用いた抗原性の解析を行った。 Nを用いたELISA法による抗体検出法、組換えGPを外套したシュードタイプVesiular Stomatitits virus (pVSV)を用いた中和抗体測定法を樹立した。これらの診断法は抗体を検出する方法として十分に有効であった。しかしながらランカウイルス感染マウス血清およびアンゾロベウイルス感染クマネズミ血清は強く交差中和反応を示し、2種類の感染を区別することは不可能であった。次に2種類のウイルス感染を鑑別する方法の確立を試みた。モノクローナル抗体を用いた抗原性の解析の結果から、GPのうちGn部分について二つのウイルスの抗原性に差があることがわかっていた。そこで、このGn部位のみを発現し、蛍光抗体法による鑑別診断法としての有効性を宿主齧歯類血清を用いて検証した。その結果、この抗原は特異的反応を示し、鑑別診断に有効であることが明らかとなった。現在、この診断法を用いて、スリランカのハンタウイルス抗体陽性者の鑑別診断を進めている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
スリランカの原因不明慢性腎臓病流行非において、患者の約半数が抗ハンタウイルス抗体を保有し、中和試験の結果からタイランド型関連ウイルスの存在および、疾病への関与が示唆された。本研究では、このウイルスをランカウイルスと命名し、遺伝子解析および遺伝子情報に基づいた診断法の開発を目標とした。さらに、タイランド型ハンタウイルス抗体陰性のCDKu患者について、他のハンタウイルスの感染の有無を明らかにすることを目的としてトガリネズミ由来ハンタウイルス4種類について抗体検出法を開発し、血清診断を試みた。Seewis, Altai, Thoattapalayam, Asamaウイルスについて検査した結果、疾病との関連は示されなかった。トガリネズミ由来ハンタウイルスの系統的なヒトの血清疫学的調査は新規の試みである。 スリランカの野生齧歯類が少なくとも2種類のタイランド型関連ハンタウイルスを保有していることが明らかとなった。またその一つがマダガスカル島のクマネズミから検出されたアンゾロベウイルスに近縁であることが明らかとなった。一方で、インドハツカネズミからが宿主となるランカウイルスはスリランカでのみ見いだされる新たな系統であった。そのため、ただ診断法を開発するのみではなく、これらのウイルス感染を区別する診断法の開発が新たな課題となった。最終的にエンベロープタンパクのGn領域の抗原を作成することにより、両感染を区別する方法を樹立することができた。現在までにスリランカの抗体陽性例300例近くの解析がこれはハンタウイルス感染症の鑑別診断法として従来ない新たな方法であり、今後の診断法の開発に大きな影響をあたえるものである。
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Strategy for Future Research Activity |
樹立した新規血清診断法について、さらに例数と採材地域を増やして検証する。コロナウイルス感染症の影響で、現地で齧歯類の調査を行い、宿主動物の全島的な調査を進めることは困難ではあるが、患者血清の収集は現地の研究協力者が進めることができている。近年スリランカ南部に新規に出現した新たなCKDu流行地や西部の非流行地における抗体保有状況を明らかにし、全島横断的な感染状況の把握を目標とする。さらに、原因不明の急性熱性疾患患者におけるハンタウイルス感染状況を明らかにするために、現地におけるリアルタイムPCR検査の検査体制を確立することを試みる。スリランカのハンタウイルス遺伝子を広く診断できる診断系、ランカウイルスおよびアンゾロベウイルスの鑑別診断が可能な診断系の二つが必要とされている。現地での負担の少ないOneStepシステムによる診断系を利用することを前提として条件の検討を進めている。
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Causes of Carryover |
今年度は研究の成果が蓄積され、論文の投稿を進めることができた。一報について受理までに時間がかかり、Open Accessのための費用を確保していたものの年度を超えてしまった。次年度は早々に受理される見込みであり、執行の計画はたっている。また、スリランカ現地において診断法を応用する予定であったため旅費および関連して必用な消耗品の購入を控えたが、コロナウイルス感染症のまん延のため結果的には今年度は使用することができなかった。最終年度は状況が落ち着いたところで渡航するため次年度使用とした。
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