2020 Fiscal Year Research-status Report
明治期の「野外教育」に関する比較史的研究-地域性を活かした活動に着目して-
Project/Area Number |
19K11627
|
Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
野口 穂高 早稲田大学, 教育・総合科学学術院, 准教授 (60434263)
|
Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
Keywords | 野外教育 / 林間学校 / 身体虚弱児童 / 屋外教育 |
Outline of Annual Research Achievements |
2020年度は、各地の野外教育実践に関する資料調査を継続するとともに、収集資料の分析を進めた。調査では、野外教育の書籍、新聞・雑誌記事など野外教育の概要や実践の状況が記載されている史料の収集を重視し、現在も継続している。また、これまで分析してきた個別の実践について、地域的な差異や共通性に注目しながらその特質を比較的に分析し、各実践の特色をより明確にできた。 ただし、本年度は、コロナ禍により出張を伴う調査が難しく、研究に支障が生じた。このため、海外の野外教育論が国内にいかに紹介されていたのかを中心に分析を進めた。明治後期は、欧州で盛んに実施されていたフェリエンコロニーやヴァルトシューレなどの野外教育施設・実践が、夏期聚落、林間学校などの名称で日本に紹介された時期であった。海外の施設・実践は虚弱児童を対象としており、結核患者向けの療養所を源流とするものとして国内には紹介された。一方で、明治後期には、これらの施設にはもう1つの源流があるとも紹介されている。すなわち、欧米の野外教育施設・実践は、ドイツの汎愛派などが実施していた教育旅行や、屋外における教育実践の系譜に連なるというものである。 この様に、欧米で展開された「林間学校」などの野外教育施設・実践の多くは、身体の養護を主目的とする施設・活動であるが、その内部には知育や、学習面での教育的要素を含むものとして日本で紹介されていた。国内の「林間学校」は、大正期には文部省により「体育的施設」として位置づけられ、虚弱児童の健康増進を中核とすることが奨励されるが、海外の実践を参観した教育学者らにより「教育と医療が児童の教育上に協力する」という概念が明治後期から紹介され、体験的な教育の発展史上に「林間学校」を位置付ける視点が示されたことは、国内の野外教育施設・実践の受容と発展の歴史や特質を検討するうえで注目すべきといえる。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
コロナ禍により、図書館・文書館等における出張調査が難しく、各地域の史料の収集において支障が生じている。そこで、2020年度は、これまで収集済みの史料の分析を進めると共に、書籍や雑誌などの購入により資料調査を進めた。またこれらの書籍などを中心に、海外の野外教育の理論がどのように明治期に紹介されていたかを検討することにした。この結果、日本国内における野外教育施設・実践の受容状況について一定の知見を明らかに出来たと考える。
|
Strategy for Future Research Activity |
本年度は、これまで収集した個別実践や地域に関する史料の分析を継続する。また、これら個別実践についての研究成果を比較史的に分析し、明治後期の野外教育施設・実践について総体的な特色や意義、歴史的な限界を明らかにする。 なお、コロナ禍により現地での調査が難しい状況は現在も続いている。ただ、本年度は感染の拡大状況などに留意しながら、現地調査を実施する方策を探りたい。また、各図書館や文書館が公開している電子資料などを用いて、可能な限り資料収集を進めたいと考えている。
|