2019 Fiscal Year Research-status Report
腸内環境を介した非アルコール性脂肪肝炎の発症リスクの低減に関する研究
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19K11719
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Research Institution | The University of Tokushima |
Principal Investigator |
片岡 佳子 徳島大学, 大学院医歯薬学研究部(医学域), 教授 (40189303)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 非アルコール性脂肪肝炎 / 食餌誘導性マウスモデル / 抗菌薬 / 腸内環境 |
Outline of Annual Research Achievements |
高脂肪高コレステロール食の投与により脂肪肝から非アルコール性脂肪肝炎(NASH)を発症するマウスモデルを用い、腸内環境への様々な介入を行い、腸内環境の変化と脂肪肝・脂肪肝炎の発症とその症状の程度の関連を検討する。 高脂肪高コレステロール食(Ejima C et al. 2016)をC57BL/6Jマウスに4週間自由摂取させるモデルにBifidobacterium longum の培養菌の胃内投与を行い、脂肪肝炎の病理組織学的評価の基準等については確認できた。しかしながら餌の摂取量が少なく、また安定せず、陽性対照群の発症が弱くバラつきも大きく、B.longum の投与効果の評価は困難であった。そこで、特殊飼料をよりマウスに適したコレステロール添加濃度の低いものに変更し(RD12079B, RD12336)、現在は、出生直後から離乳までの期間に、抗菌薬として、バンコマイシン(グラム陽性菌対象)、ポリミキシン(グラム陰性菌)、アンピシリン(全菌種対象)を投与し、菌叢形成を撹乱し、8週齢以降に特殊飼料を与え、脂肪肝・脂肪肝炎の評価および腸内環境の解析のためのサンプルを同様に採取する実験を進めている。 RD12079B を与えた群の雄マウスでは、バンコマイシン、ポリミキシンを乳児期に投与(母マウスと同ケージ内での自由飲水とした)すると体重がより増加する傾向がみられ、一方、アンピシリン投与群では通常食(抗菌薬なし)群に比べて体重増加が遅れた。RD12336 を与えた群は、体重増加は起こさず脂肪肝・脂肪肝炎を起こすモデルで、抗菌薬投与群ではむしろ体重が減少して安楽死に至った個体が出現している。 空腹時血糖値や脂肪肝炎の血中マーカー、肝臓の病理組織学的評価はこれからであるが、出生直前から3週齢で離乳するまでの間の抗菌薬投与が成長してからの特殊飼料による脂肪肝炎に影響しているものと考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初の計画では、高脂肪高コレステロール食(Ejima C et al., Physiol Rep, 2016)をC57BL/6Jマウスに自由摂取させるモデルに、食物繊維の混餌投与、またはBifidobacterium 培養菌の胃内投与を行う予定であったが、マウスの摂食量が安定せず、陽性対照群において十分な脂肪肝炎の発症が見られなかった。また、Bifidobacterium 培養菌の投与効果についても、個体ごとに大きなばらつきがみられた。そこで、実験用特殊飼料について再考し、 “少ない介入で作製するモデルマウス”(Tsuneyama K., 肝臓, 2018)を参考にし、徳島大学疾患病理学分野に相談し、よりマウスに適した食餌誘導性のNASHモデルを使用することにした。腸内環境への介入を行うので、できるだけマウス側の身体的負担の少ないタイプのモデルを選択し直した。 本研究とは別に、「ヒト腸内菌叢の形成過程に関する研究」を並行して進めており、出生直後から3歳までの便中菌叢の変化と児の周囲環境(抗菌薬の使用調査など含む)との関連を調べている。そのため本研究においても、マウスの出生直後から乳児期の期間に抗菌薬としてバンコマイシン(グラム陽性菌対象)、ポリミキシン(グラム陰性菌)、アンピシリン(全菌種対象)を投与し、菌叢形成を撹乱する処置を行い、抗菌薬投与が脂肪肝炎に及ぼす影響を先に検討することにした。マウスが十分に成長した8週齢から特殊飼料に切り替え、現在は、実績概要に示したように、順調に、マウスの体重増加や脂肪肝炎による影響がみられ始めている。一定期間飼育後に腸内環境の解析のためのサンプルを採取しつつ、期間終了時には当初の計画に従って脂肪肝・脂肪肝炎の評価を行うべく準備を整えている。
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Strategy for Future Research Activity |
腸内環境への上記の介入を行った後の腸内環境の解析を実験計画に沿って行い、菌叢構成の相違と脂肪肝・脂肪肝炎の発症の有無やその症状の程度について、クラスター解析、主成分分析等を行い、腸内菌叢構成比や腸内菌由来の有機酸濃度など腸内環境の指標と病態との関連性を解析する。腸内環境への介入により強く影響を受けた実験群について、肝臓組織の遺伝子発現の解析を行うとともに、腸内菌叢中の特定菌種の定量や胆汁酸の組成の分析を行う。2020年度から、研究責任者と同じ分野に所属する櫻井明子助教が研究分担者として加わり、大学院生とともに、脂肪肝炎の病理組織学的評価と肝臓組織中での遺伝子発現解析を推進できるようにしている。NASHの発症リスクと腸内菌叢およびその代謝産物との関連性を明らかにし、発症を抑制するためには腸内環境の何を標的にすべきなのかについて考察する。 モデル動物の飼育期間が長くかかるため、上記の抗菌薬による介入の動物実験が終わり次第、当初の計画に入れていた食物繊維や Bifidobacterium による介入実験の準備を開始する予定である。
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Causes of Carryover |
当初に予定していた特殊飼料ではマウスの摂食量が安定せず、非アルコール性肝炎モデルとして適切に介入実験を行うことができないと考え、特殊飼料を変更した。そのため、マウス糞便中の菌叢解析・血中マーカーの測定に使用予定であった経費分が差額として残った。 現在、変更後の特殊飼料を用いて順調に動物実験は進行しており、2年目の2020年度中には当初の目的通り使用する予定である。
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